アリスズ
☆
「名前…」
再び、アディマとの旅が始まってから、景子は出来るだけさりげなく、彼に聞いてみた。
「名前…呼び方変わったのね…」
丘の上。
今夜の野宿は、ここだった。
満点の星と、不吉な黒い三日月が昇る空。
「ああ…退屈だったからね、待っている間」
唇の中で、アディマは小さく『ケイコ』と呟く。
聞いているだけで、恥ずかしくなった。
そっか。
彼女が、リサーたちと村に行っている間、アディマは領主の屋敷に滞在していたのだ。
ただ待つ、というのも退屈だったのだろう。
暇つぶしとは言え、彼が景子の名前の練習をしてくれたかと思うと、恐縮だった。
「あ…名前…」
そこで、景子はハタと気づいた。
「私、アディマって呼んでるけど…それ、失礼なことなんじゃ…ない?」
言葉が分からない時は、それで許されたかもしれない。
しかし、彼がすごい身分だと分かった今は、改めなければならない気がした。
何しろ、他の誰一人として、『アディマ』と呼ばないのだから。
菊でさえ、知っていても呼ばなかったではないか。
「ケイコは、私の従者でもなんでもないから、好きに呼んでかまわないよ」
クスクスと笑うアディマに、景子の方が困ってしまう。
「でも、本当は『イデアメリトスの御方』、とか呼ばないとダメなんじゃ…」
言いながら、景子はしょんぼりしてきた。
自分の言葉に、自分で落ち込んでしまったというか。
壮絶な距離感を感じたのだ。
「ケイコにとって、イデアメリトスなんて、何の意味のないものだろう?」
笑いながらそんなことを言うものだから、聞き耳を立てていたリサーが目をひんむいた。
「そんな…」
「それに」
景子の言葉に、アディマが声をかぶせてくる。
「それに…ケイコだって、『魔法』が使えるだろう?」
耳元で。
最近覚えた言葉が――囁かれた。
「名前…」
再び、アディマとの旅が始まってから、景子は出来るだけさりげなく、彼に聞いてみた。
「名前…呼び方変わったのね…」
丘の上。
今夜の野宿は、ここだった。
満点の星と、不吉な黒い三日月が昇る空。
「ああ…退屈だったからね、待っている間」
唇の中で、アディマは小さく『ケイコ』と呟く。
聞いているだけで、恥ずかしくなった。
そっか。
彼女が、リサーたちと村に行っている間、アディマは領主の屋敷に滞在していたのだ。
ただ待つ、というのも退屈だったのだろう。
暇つぶしとは言え、彼が景子の名前の練習をしてくれたかと思うと、恐縮だった。
「あ…名前…」
そこで、景子はハタと気づいた。
「私、アディマって呼んでるけど…それ、失礼なことなんじゃ…ない?」
言葉が分からない時は、それで許されたかもしれない。
しかし、彼がすごい身分だと分かった今は、改めなければならない気がした。
何しろ、他の誰一人として、『アディマ』と呼ばないのだから。
菊でさえ、知っていても呼ばなかったではないか。
「ケイコは、私の従者でもなんでもないから、好きに呼んでかまわないよ」
クスクスと笑うアディマに、景子の方が困ってしまう。
「でも、本当は『イデアメリトスの御方』、とか呼ばないとダメなんじゃ…」
言いながら、景子はしょんぼりしてきた。
自分の言葉に、自分で落ち込んでしまったというか。
壮絶な距離感を感じたのだ。
「ケイコにとって、イデアメリトスなんて、何の意味のないものだろう?」
笑いながらそんなことを言うものだから、聞き耳を立てていたリサーが目をひんむいた。
「そんな…」
「それに」
景子の言葉に、アディマが声をかぶせてくる。
「それに…ケイコだって、『魔法』が使えるだろう?」
耳元で。
最近覚えた言葉が――囁かれた。