アリスズ

 リサーが、固まった。

 ダイは、二度景子を見た。

 シャンデルの両目は、転げ落ちて行方不明になりそうだった。

 アディマは――微笑んだ。

「道理でケイコは、深い知識を持っているわけだね」

 あれ?

 柔らかい受け流しに、彼女の方が戸惑う。

 決定的な、一言だと思っていた。

 だって、31歳なのだ。

 この国の平均寿命は知らないが、決して長すぎはしないだろう。

 少なくとも、行かず後家どころの騒ぎではないはずだ。

「私より…年上…」

 リサーなんか、虚ろな言葉を呟いているほどなのに。

「ケイコの秘密というのは、それかい? あ…まさかとは思うけど…既に結婚しているとかは…ないかな?」

 微笑んでいたアディマが、後半、微かに恐れを含む声になる。

 本当に、心配げに景子を見るのだ。

 カァっと、顔に血が昇る。

 さっきまで、冷静さを演じようとしていた根っこが、引きちぎられた気がしたのだ。

「おかしい…よね」

 笑いかけて、失敗する。

 31歳未婚――それを、アディマにじっと見られている事実に、耐えられなくなってきたのだ。

「いいや…太陽に感謝しているよ」

 なのに。

 アディマは、目を細める。

「僕と出会う前に、誰かに連れ去られていてもおかしくなかった…でも、ケイコはここにいるだろう?」

 両手を、差し伸べられる。

 え?

 その手が、景子の身体を柔らかく抱き締めるのだ。

 ええ?

 太陽がさんさんと差し、ダイがいて、リサーがいて、シャンデルがいるこんなところで。

 彼女は、アディマに抱き締められているのだから。

「ケイコの国の男たちは、みな目が見えなかったんだろう…ああ、本当によかった」

 ズレ続ける論点の中、アディマは本当にうれしそうだった。

 彼のそんな行動は、三人の人間を仮死状態に陥らせたのだ。

 景子、リサー、シャンデルである。

 ダイは――ぽりぽりと頭をかいていた。
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