アリスズ
○
楽しい時間は、あっという間だ。
すぐに、晩餐の支度をするよう、先触れがきてしまう。
梅は、景子に新しい衣裳を用意しようとした。
「あ、いえ…私は」
しかし、彼女は遠慮する。
最初、遠慮しているのは、衣裳のことかと思ったのだ。
しかし、そうではなくて、晩餐そのものへの参加を遠慮していると分かった。
「ダイさんも、シャンデルさんも出ませんから」
そう言った景子に、梅は悲しささえ覚えた。
この旅は、たくさんの知識を彼女にもたらしたのだ。
それで、自分はあの席に座ってはならないと――そう知ったのである。
同時に、梅はイデアメリトスの子とやらに、がっかりもしたのだ。
彼が、大きくなっていた事実は、イエンタラスー夫人に聞いていたので驚かずに済んでいた。
しかし、同時に安心していたのだ。
あの小さい姿が、仮初めのものだったと言うのならば、きっと景子とのことも、よい方に転がるに違いない、と。
なのに、だ。
景子は、彼に対して小さくなっている。
一体、彼女をどんな風に扱っていたのか。
短い時間ではあったが、彼ならばと見込んで、景子たちを送り出したと言うのに。
「景子さん…今夜は、是非私の客人として出席して下さい」
梅は、深く深く懇願した。
そうしたら。
景子は、その目にじわっと涙さえ浮かべたのだ。
「う、梅さん…わ、私…ここに残っちゃダメ…かなあ?」
しょんぼりしてゆく、小さい肩。
ああ。
イデアメリトスが、どれほどのものというのか。
梅は、怒っていた。
彼女らの恩人であり、日本人の良心で出来たような景子を、こんな風に追い詰めるなんて。
見損ないましたわ。
梅の中で、イデアメリトスの株が暴落していったのだった。
楽しい時間は、あっという間だ。
すぐに、晩餐の支度をするよう、先触れがきてしまう。
梅は、景子に新しい衣裳を用意しようとした。
「あ、いえ…私は」
しかし、彼女は遠慮する。
最初、遠慮しているのは、衣裳のことかと思ったのだ。
しかし、そうではなくて、晩餐そのものへの参加を遠慮していると分かった。
「ダイさんも、シャンデルさんも出ませんから」
そう言った景子に、梅は悲しささえ覚えた。
この旅は、たくさんの知識を彼女にもたらしたのだ。
それで、自分はあの席に座ってはならないと――そう知ったのである。
同時に、梅はイデアメリトスの子とやらに、がっかりもしたのだ。
彼が、大きくなっていた事実は、イエンタラスー夫人に聞いていたので驚かずに済んでいた。
しかし、同時に安心していたのだ。
あの小さい姿が、仮初めのものだったと言うのならば、きっと景子とのことも、よい方に転がるに違いない、と。
なのに、だ。
景子は、彼に対して小さくなっている。
一体、彼女をどんな風に扱っていたのか。
短い時間ではあったが、彼ならばと見込んで、景子たちを送り出したと言うのに。
「景子さん…今夜は、是非私の客人として出席して下さい」
梅は、深く深く懇願した。
そうしたら。
景子は、その目にじわっと涙さえ浮かべたのだ。
「う、梅さん…わ、私…ここに残っちゃダメ…かなあ?」
しょんぼりしてゆく、小さい肩。
ああ。
イデアメリトスが、どれほどのものというのか。
梅は、怒っていた。
彼女らの恩人であり、日本人の良心で出来たような景子を、こんな風に追い詰めるなんて。
見損ないましたわ。
梅の中で、イデアメリトスの株が暴落していったのだった。