アリスズ
○
「イデアメリトスの君…景子さんの言わんとしていることが伝わらないのですか?」
梅は、ただの木から、木の精霊になった。
囁かずには、いられなかったのだ。
「景子さんは、こう言っているのですよ…『あなたと一緒に都に行くと、絶対に自分は傷だらけになる』、と」
「梅さん…」
残酷なほどはっきりとした翻訳を、景子が弱弱しく止める。
「あなたの隣で、傷だらけになってゆく景子さんを…見たいのですか?」
イデアメリトスの君は、まだ若いのだ。
勿論、梅も若い。
しかし、こういうことは周囲の人間の方が、よく分かるのである。
自分が世継ぎ候補として都に帰った時、どういう扱いになるのか。
当然、成人の儀に成功しているのだから、すぐに結婚相手も探されるだろう。
いや、既に候補くらい、ゴロゴロいるかもしれない。
そんな中、いきなり都の誰も知らない、異国の女を伴侶にすると連れ帰って、うまくいくと思っているのだろうか。
「そんな事はない…僕が、させない」
きっぱりと言い切る彼に、梅は微笑みを向ける。
「では、リサードリエックさんは、お二人のことを祝福していますか?」
彼こそが、臣下の代表と言っていいだろう。
しかも、このイデアメリトスの彼の、味方寄りの思考を持つ人間だ。
「……」
返答は、なかった。
「あなたの味方でもある彼が祝福しないのです…それでどうして、都に戻ってうまくいくと思ってらっしゃるのですか?」
干菓子よりも甘い考えだ。
「本気で彼女を迎え入れたいと思われているのならば、まず都での御自分の足場固めと、周囲に認めさせる環境づくりを、最初にすべきだと思いますけど…」
語りながら、梅は自省も始めていた。
よくしゃべる梅の木だこと、と。
イデアメリトスの彼は、ゆっくりとため息を吐く。
部屋は、静まり返った。
景子は、どうしたらいいか分からないかのように、ただ二人の顔を見ている。
向かいに座る青年は、ゆっくりと立ち上がったのだ。
「その通りだね、ウメ。どうやら僕は、一人で浮かれていたようだ」
愛ひとつ自由に語れない自分の立場を、ようやく彼は理解したようだった。
「イデアメリトスの君…景子さんの言わんとしていることが伝わらないのですか?」
梅は、ただの木から、木の精霊になった。
囁かずには、いられなかったのだ。
「景子さんは、こう言っているのですよ…『あなたと一緒に都に行くと、絶対に自分は傷だらけになる』、と」
「梅さん…」
残酷なほどはっきりとした翻訳を、景子が弱弱しく止める。
「あなたの隣で、傷だらけになってゆく景子さんを…見たいのですか?」
イデアメリトスの君は、まだ若いのだ。
勿論、梅も若い。
しかし、こういうことは周囲の人間の方が、よく分かるのである。
自分が世継ぎ候補として都に帰った時、どういう扱いになるのか。
当然、成人の儀に成功しているのだから、すぐに結婚相手も探されるだろう。
いや、既に候補くらい、ゴロゴロいるかもしれない。
そんな中、いきなり都の誰も知らない、異国の女を伴侶にすると連れ帰って、うまくいくと思っているのだろうか。
「そんな事はない…僕が、させない」
きっぱりと言い切る彼に、梅は微笑みを向ける。
「では、リサードリエックさんは、お二人のことを祝福していますか?」
彼こそが、臣下の代表と言っていいだろう。
しかも、このイデアメリトスの彼の、味方寄りの思考を持つ人間だ。
「……」
返答は、なかった。
「あなたの味方でもある彼が祝福しないのです…それでどうして、都に戻ってうまくいくと思ってらっしゃるのですか?」
干菓子よりも甘い考えだ。
「本気で彼女を迎え入れたいと思われているのならば、まず都での御自分の足場固めと、周囲に認めさせる環境づくりを、最初にすべきだと思いますけど…」
語りながら、梅は自省も始めていた。
よくしゃべる梅の木だこと、と。
イデアメリトスの彼は、ゆっくりとため息を吐く。
部屋は、静まり返った。
景子は、どうしたらいいか分からないかのように、ただ二人の顔を見ている。
向かいに座る青年は、ゆっくりと立ち上がったのだ。
「その通りだね、ウメ。どうやら僕は、一人で浮かれていたようだ」
愛ひとつ自由に語れない自分の立場を、ようやく彼は理解したようだった。