アリスズ

 先日、梅を交えて三人で話をした。

 その時、ようやくアディマは、自分の言っていることが、どれほど難しいことか分かってくれたのだ。

 嫌いって言ってしまえれば、楽なんだけどなあ。

 景子は、屋敷の裏庭に腰かけて、ため息をつきながらしょんぼりしていた。

 ああ、私、ホントにアディマが好きなんだ。

 最近、ようやくそれが分かってきた──というか、目をそらしてはいられなくなってきたというか。

 離れなくても悲しいし、離れても悲しいし。

 女心は、複雑なのだ。

「ケイコ…」

 不意に、後ろから声をかけられ、心臓が飛び出すほど驚いた。

 慌てて、立ち上がって振り返ると、扉の向こうからアディマが現れたのだ。

「ケイコ…ちょっと座って話をしないか?」

 こんな日当たりの悪い裏庭に、イデアメリトスと呼ばれている彼を座らせる!?

 景子は、若干青ざめかけたが、相手はさっぱり気にせずに、彼女の隣に座った。

 しょうがなく、彼女も再び腰を下ろす。

 落ち着く──はずなどない。

 跳ねる胸を押さえながら、景子はあらぬ方を向いていなければならないのだ。

「ウメに言われてから、いろいろ考えてみた…それで、ケイコに一つ、お願いがあってね」

 穏やかな声に呼びかけられ、景子はそちらに糸がついたように顔を向ける。

 そして、瞳を覗いてしまうのだ。

「ケイコ…僕と一緒に都に来て欲しい」

 底の見えない、深い金の瞳。

 景子の目に太陽を見たというが、アディマの目こそ、太陽そのものに思えるほど。

「ケイコの知恵を、この国は必要としている…僕を助けてくれないだろうか」

 色恋の話を、彼はあえて胸の内側に沈めてから来た。

 それが分かったら、寂しくも嬉しくなる。

 たとえいつか、景子を思う気持ちが消えていったとしても、アディマは自分を必要としてくれるのだ。

 へへへ。

 しまりなく、彼女は笑った。

「嬉しいなあ…役に立てるなら」

 嬉しいなあ、ホントに。
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