アリスズ

「これから、どうするの?」

 そう、梅に言われて、菊は首を傾げた。

「ああ…考えてなかった」

 アルテンの旅に付き合って、神殿にもう一度行ってきただけなのだ。

 その間に、どれだけの鍛錬をしたかは、脇に置いておくとしても。

「アルテンは、あなたを自分の屋敷に連れて行きたがってるわよ」

 よほど、心酔されたのね。

 梅が、茶化すように笑う。

 それに、苦笑で答えた。

「やなこった」

 この屋敷でさえ、どうも落ち着かないというのに、ここよりももっと面倒臭そうなアルテンの屋敷に住まうなど、考えられない。

「それじゃあ、都へ行ったらどう? 景子さんは、もう到着しているはずよ」

 菊は、ぴくんとそれに反応した。

 景子の話題が出てきたことよりも、それを語る梅の口調に、だ。

「ふぅん…」

 梅の声の中に、憧れが混じっている気がした。

 都へ、という部分に。

 そうか、行きたいんだ。

「都まで、どのくらいで行けるんだ?」

 菊には、この国の基本的知識が、ほとんどない。

 生きて行く術は身につけていたので、これまでそれらは不要な学問に近かったのだ。

「そうね…荷馬車の旅でも2~3カ月くらい、と聞いたわ」

 2~3か月。

 梅の身体からしたら、絶望的な数字に見える。

「そうかそうか…面白そうだし、行ってみるか」

 菊は、相方の目の前に釣り針をぶら下げるように、軽い口調で言った。

 梅は。

 その釣り針を、挑戦的な瞳で見つめ返すのである。

「行くんだろ?」

 遠回りなことを言わずに、さっさと結論を出せばいいものを。

 菊は、苦笑しながら彼女を見る。

「ええ…いつか、ね」

 それが、梅の答え。

 いつか。

 梅の『いつか』は──『いつか、必ず』という意味。
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