アリスズ

「アディマーーー!」

 それは、大きな声だった。

 門を抜け、いざ都への道を歩き出そうとした時のことである。

 こんなところで、名前を呼ばれるはずなどない。

 ましてや、『アディマ』なんて呼び方をされるはずもない。

 こんな、変なところで名前をブチ切って呼ぶ人間など── 一人しか、心当たりはなかった。

 ケイ、コ?

 瞬間的に、アディマは視線を定められなかった。

 心臓の方が、意識より先に走って行ってしまったせいで、一瞬冷静でいられなかったのだ。

 だが。

 手を振りながら、駆けてくる姿が見える。

 ああ。

 ああ、太陽よ。

 朝日と共に、彼女は現れた。

 19歳最後の日、都への旅立ちの朝に、ケイコは目の前に現れたのだ。

 震える胸を抑え切れず、アディマは己の幸運を感謝していた。

「アディマ、都へ行くの? 二十歳になるのね?」

 猛烈に走ってきた小さい身体。

 ケイコは、こちらの女性の標準と比べても、小さいのだ。

 この小さい身体が、旅の途中までは大きいものだった。

 アディマの肩書にも臆することなく、たどたどしく言葉を覚えていた時のことだ。

 いまや、彼の方が大きくなった。

 彼女を抱きしめられるほどに。

 しかし、ケイコは目の前で急ブレーキをかけるのだ。

 イデアメリトスが相手でなくとも、彼女はそんなことを自分からする人間ではなかった。

 微かに疼く両腕に、アディマは苦笑を覚えた。

 抱きしめたかったな、と。

「ああ、そうだよ…明日には都に着く。ケイコも元気そうでよかった」

 目を、細める。

 彼女は、朝日の中で輝いて見えた。

 走って弾んだ息も、赤くなった頬も、嬉しさを隠しきれない目も。

 アディマは、彼女の全てを網膜に焼き付けようとしていた。

 ただ。

「ちょ…いい加減にしろよ…一体なんだってんだ」

 後方から、ケイコについてきたオマケは──想定外だった。
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