アリスズ
□
「アディマーーー!」
それは、大きな声だった。
門を抜け、いざ都への道を歩き出そうとした時のことである。
こんなところで、名前を呼ばれるはずなどない。
ましてや、『アディマ』なんて呼び方をされるはずもない。
こんな、変なところで名前をブチ切って呼ぶ人間など── 一人しか、心当たりはなかった。
ケイ、コ?
瞬間的に、アディマは視線を定められなかった。
心臓の方が、意識より先に走って行ってしまったせいで、一瞬冷静でいられなかったのだ。
だが。
手を振りながら、駆けてくる姿が見える。
ああ。
ああ、太陽よ。
朝日と共に、彼女は現れた。
19歳最後の日、都への旅立ちの朝に、ケイコは目の前に現れたのだ。
震える胸を抑え切れず、アディマは己の幸運を感謝していた。
「アディマ、都へ行くの? 二十歳になるのね?」
猛烈に走ってきた小さい身体。
ケイコは、こちらの女性の標準と比べても、小さいのだ。
この小さい身体が、旅の途中までは大きいものだった。
アディマの肩書にも臆することなく、たどたどしく言葉を覚えていた時のことだ。
いまや、彼の方が大きくなった。
彼女を抱きしめられるほどに。
しかし、ケイコは目の前で急ブレーキをかけるのだ。
イデアメリトスが相手でなくとも、彼女はそんなことを自分からする人間ではなかった。
微かに疼く両腕に、アディマは苦笑を覚えた。
抱きしめたかったな、と。
「ああ、そうだよ…明日には都に着く。ケイコも元気そうでよかった」
目を、細める。
彼女は、朝日の中で輝いて見えた。
走って弾んだ息も、赤くなった頬も、嬉しさを隠しきれない目も。
アディマは、彼女の全てを網膜に焼き付けようとしていた。
ただ。
「ちょ…いい加減にしろよ…一体なんだってんだ」
後方から、ケイコについてきたオマケは──想定外だった。
「アディマーーー!」
それは、大きな声だった。
門を抜け、いざ都への道を歩き出そうとした時のことである。
こんなところで、名前を呼ばれるはずなどない。
ましてや、『アディマ』なんて呼び方をされるはずもない。
こんな、変なところで名前をブチ切って呼ぶ人間など── 一人しか、心当たりはなかった。
ケイ、コ?
瞬間的に、アディマは視線を定められなかった。
心臓の方が、意識より先に走って行ってしまったせいで、一瞬冷静でいられなかったのだ。
だが。
手を振りながら、駆けてくる姿が見える。
ああ。
ああ、太陽よ。
朝日と共に、彼女は現れた。
19歳最後の日、都への旅立ちの朝に、ケイコは目の前に現れたのだ。
震える胸を抑え切れず、アディマは己の幸運を感謝していた。
「アディマ、都へ行くの? 二十歳になるのね?」
猛烈に走ってきた小さい身体。
ケイコは、こちらの女性の標準と比べても、小さいのだ。
この小さい身体が、旅の途中までは大きいものだった。
アディマの肩書にも臆することなく、たどたどしく言葉を覚えていた時のことだ。
いまや、彼の方が大きくなった。
彼女を抱きしめられるほどに。
しかし、ケイコは目の前で急ブレーキをかけるのだ。
イデアメリトスが相手でなくとも、彼女はそんなことを自分からする人間ではなかった。
微かに疼く両腕に、アディマは苦笑を覚えた。
抱きしめたかったな、と。
「ああ、そうだよ…明日には都に着く。ケイコも元気そうでよかった」
目を、細める。
彼女は、朝日の中で輝いて見えた。
走って弾んだ息も、赤くなった頬も、嬉しさを隠しきれない目も。
アディマは、彼女の全てを網膜に焼き付けようとしていた。
ただ。
「ちょ…いい加減にしろよ…一体なんだってんだ」
後方から、ケイコについてきたオマケは──想定外だった。