アリスズ

「あー…ケーコの勤務態度?」

 ネイディは、ちらりと横目で彼女を見る。

 どう言いつけてやろうかな──そんな気配が伺い知れる視線だった。

 や、や、やめてぇぇ。

 景子は青ざめながら、職場の仲間を見つめるしか出来ない。

 確かに、彼女は学校にも行った。

 畑ばかり走り回った。

 提出した書類は少ない。

 で、で、で、でも、遊んでたわけじゃないのよー。

 今日だって、こうして隣領の畑を見ようと、出張してやってきたわけだし。

 景子は、心の中で山ほどの言い訳を、並べたてようとした。

「リサードリエック、その辺にしておいてやれ…ケイコが倒れそうだ」

 彼女の顔色を見て、アディマは苦笑しながら従者をなだめる。

「しかし、我が君…私の父のはからいで、農林府に置いているのです。私には知る権利があると思いますが」

 なるほど、ごもっともな反論だった。

 このままネイディによって、断罪されるだろう──そう覚悟しかけた時。

「我が君…って…え、父のはからいって…」

 ネイディは、別の方向で混乱を始めていた。

 目まぐるしく、四人の旅人のひとりひとりの顔を見ている。

「ケーコ、君の後見人って…ブエルタリアメリー卿だったよね…」

 その声は、問いかけているものとはちょっと違った。

 否定してくれ、誰か嘘だと言ってくれ、という絶望に似た音。

 何故、そこまでネイディの声が落下していっているのか、とっさに彼女は分からなかった。

「ま、さ、か…イデアメリトスの…」

 そして、ネイディの視線が、汗をだらだら流しながら、アディマで止まったのだ。

 あ。

 ようやく、景子は理解した。

「ああ…気にしなくていい。都に入るまでは、ただの旅人だよ」

 いまにも平伏しそうな彼を、アディマは止める。

 ネイディの目はアディマと景子を行ったり来たりしながら、『僕はどうしたらいいんだ?』と、彼女に必死に助けを求めていた。
< 209 / 511 >

この作品をシェア

pagetop