アリスズ

「我が君…」

 ちくっと、隣からリサーから一言飛んでくる。

 ああ。

 アディマは、気づいた。

 どうやら、我知らず笑みをおさえきれなかったようだ。

「はぁ…そろそろ諦めて下さっていると思ったのですが」

 太陽に申し訳ないとでもいうかのように、彼は足もとに視線を落とす。

「ケイコは、元気そうだったな」

 さらりと、リサーの言葉を受け流した。

 同僚と一緒だったため、ゆっくり話せなかったのが残念だ。

「はぁ…」

 元気であることさえ、リサーにとっては気鬱なようだ。

 彼はケイコが邪魔だからといって、抹殺を企てるような人間ではない。

 そこだけは、助かっている。

 だから、どんなに耳の痛い話をされたとしても、リサーに彼女の話を振れるのだ。

 遠くに、都と隣領の間を巡回する兵士らしき姿を見ながら、アディマは口うるさいが、今後一生頼りにする従者について考えていた。

 旅立つ前、家柄と性格から選んだのが、リサードリエックだった。

 ブエルタリアメリー家の長男で、アディマの小姓的な役割を担っていた一人だ。

 どの貴族も、イデアメリトスの覚えをめでたいものにしたいと、子供のうちからお側付きとして差し出すのである。

 リサーは、特に勉学に励んでいた。

 そして、決して向いてはいないというのに、剣術も学んだ。

 学術肌で、慎重な性格の男だった。

 そして、何より。

 アディマに自分の意見をぶつけてくるのは──彼だけだったのである。

 腹の立つことも、不快な思いをしたこともあった。

 しかし、最終的にリサーを選んだのだ。

 それが、一番自分のためになると思った。

 近づいてきた巡回の兵士が、足を止める。

 彼は路肩によけ、こちらを探るように見ていた。

 怪しい者ではないか、確認しているのだろう。

 髪の長いリサーがいるから、問題なく通れるだろう。

 そう、思っていた。
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