アリスズ

「待たれよ」

 その兵士は、アディマ一行を呼び止めた。

「この道で不審な男に、何人かが斬りつけられる事件が起きている」

 重々しい口調で、言葉を吐く。

 そんな事件が?

 アディマは、表情を曇らせた。

 ここは、巡回も厳しい都からの道だ。

 そんなところで、人斬りとは。

「そのため、剣を持つ者に、いくつか質問をさせてもらっている」

 リサーは、ちらっとアディマを横目にで見た。

 どうしますか?

 そう、彼は聞いているのだ。

 さっさと身分を明かして、先を進もうと考えているのかもしれない。

 アディマは、首を小さく横に振った。

 兵士も、仕事でやっているのだ。

 問題がないと分かれば、すぐに通してくれるだろう。

「そこの大きな男」

 一番最初に呼ばれたのは、ダイだった。

 当然な順序だろう。

 髪も短く、力も強そうで、更に剣をさげているのだから。

 ダイは、ゆっくりと兵士の方へと進み出た。

 刹那。

 ダイの背中の下側に、何かが飛び出した。

 長細い──刃。

 血が、その切っ先からしたたる。

「……!」

 瞬間的に、リサーの背がアディマをかばった。

 その肩越しに見る景色の中。

 ダイは。

 倒れなかった。

 その大きな両手で、兵士の両肩を砕くほどに強く握り上げたのだ。

 相手は、その手から逃れ、細長い剣を引き抜こうと必死で暴れた。

 その度に、ダイの背中から血が噴き出す。

 だが。

 ダイは、男を自分から離さなかった。

 そうしていれば、決してアディマに害が及ぶことはないのだとでも言うかのように。
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