アリスズ
□
迂闊だった。
誰もが、ありえないと思っていた。
あのダイですら、完全に油断をしていたのである。
だが、誰が彼を責められよう。
兵士然とした態度に不自然なところはなかったし、警備の厳しい街道であったし、なにより──太陽の昇っている間のことだった。
逆に言えば。
今回のアディマの旅路を、最後の最後で死に物狂いで失敗に終わらせようと思っていた、執念深い人間がいたということである。
太陽のある時間でも、もはや構わぬ、と。
最初にダイを選んだのは、一番屈強な人間を、まず使い物にならなくしようと考えたのだろう。
ダイさえつぶしてしまえれば、残りの人間など倒せるという自信があったに違いない。
だから、彼が最初に狙われ、だまし討ちされたのだ。
だが。
ダイにも、執念があった。
自分の身体に剣を突き刺したまま、男を決して離さなかったのだ。
リサーが、その賊を捕えようとした時。
男は、唇から血を流して死んだ。
おそらく、毒を仕込んでいたのだろう。
「もういいぞ」
リサーが、男が事切れたのを確認した後、ダイにそう言った。
しかし、彼はまだ男の肩を掴んで釣り上げたままで。
顔は痛みと怒りで深い皺をいくつも刻み、歯をぎりぎりと食いしばっている。
激痛と感情の昂りで、周囲の声が耳に入っていないのだろう。
「もういい…ダイエルファン」
アディマは、その頼もしくも大きな身体に近づき、腕を触れた。
どさり。
盛り上がるほどだった腕の筋肉が解かれ、屍は地に落ちる。
「シャンデルデルバータ…町に戻って、領主の助けを借りてきてくれるか?」
リサーが、てきぱきと指示を出している。
ダイは、まだ倒れない。
「もうし…わけ…ありません」
腹に刃を刺したまま、荒い息も絶え絶えにダイは、己の失態を悔いるのだ。
言うべき言葉は、たったひとつしか浮かばなかった。
「よくやった」
ダイは、ようやく崩れるように膝を折った。
迂闊だった。
誰もが、ありえないと思っていた。
あのダイですら、完全に油断をしていたのである。
だが、誰が彼を責められよう。
兵士然とした態度に不自然なところはなかったし、警備の厳しい街道であったし、なにより──太陽の昇っている間のことだった。
逆に言えば。
今回のアディマの旅路を、最後の最後で死に物狂いで失敗に終わらせようと思っていた、執念深い人間がいたということである。
太陽のある時間でも、もはや構わぬ、と。
最初にダイを選んだのは、一番屈強な人間を、まず使い物にならなくしようと考えたのだろう。
ダイさえつぶしてしまえれば、残りの人間など倒せるという自信があったに違いない。
だから、彼が最初に狙われ、だまし討ちされたのだ。
だが。
ダイにも、執念があった。
自分の身体に剣を突き刺したまま、男を決して離さなかったのだ。
リサーが、その賊を捕えようとした時。
男は、唇から血を流して死んだ。
おそらく、毒を仕込んでいたのだろう。
「もういいぞ」
リサーが、男が事切れたのを確認した後、ダイにそう言った。
しかし、彼はまだ男の肩を掴んで釣り上げたままで。
顔は痛みと怒りで深い皺をいくつも刻み、歯をぎりぎりと食いしばっている。
激痛と感情の昂りで、周囲の声が耳に入っていないのだろう。
「もういい…ダイエルファン」
アディマは、その頼もしくも大きな身体に近づき、腕を触れた。
どさり。
盛り上がるほどだった腕の筋肉が解かれ、屍は地に落ちる。
「シャンデルデルバータ…町に戻って、領主の助けを借りてきてくれるか?」
リサーが、てきぱきと指示を出している。
ダイは、まだ倒れない。
「もうし…わけ…ありません」
腹に刃を刺したまま、荒い息も絶え絶えにダイは、己の失態を悔いるのだ。
言うべき言葉は、たったひとつしか浮かばなかった。
「よくやった」
ダイは、ようやく崩れるように膝を折った。