アリスズ

「うはははは。油断したか、馬鹿者が」

 都の隣の町というのは、人や施設が遜色ないほど充実している。

 馬で単騎駆けならば、半日もかからない距離なのだ。

 おかげで。

 小うるさい親戚も、この町に住んでいる、というワケだ。

「叔母上様…ひやかしにいらっしゃったのですか?」

 褐色の肌に香油を塗り、輝きと香りを際立たせ、長い髪を美しくうねらせる、父の妹だ。

 跡目こそ継げなかったが、彼女も正式にイデアメリトスとして名を連ねている──要するに、旅を成功させた者の一人である。

 だからこそ、好きなだけ髪を伸ばし、若さを維持できるのだが。

「刺されたのが、おまえでなかったということは、よい従者のおかげというワケだな」

 んふんふと、興奮気味に叔母は笑う。

 女だてらに旅を成功させるほどの、肝の太さを持つ彼女だ。

 この状況を、とてもとても楽しんでいるようにしか思えない。

「さて、その従者君はどこだね」

 指をわきわきと動かしながら、叔母は目をらんらんと輝かせていた。

「今はまだ、治療中です」

 入らないで下さいよ。

 いい医師たちをつけてはいるが、斬りつけられた外傷とワケが違う。

 最終的にはダイの運と生命力で、乗り切ってもらうことになる。

 釘を刺す甥を、彼女は上から睨み下ろした。

 背は、明らかにアディマの方が高いので、胸を反りかえらせてまで見下ろす視線にするのだ。

「馬鹿者! このイデアメリトスの日向花が、直々に助けてやろうと出向いてやったのだ。ひれ伏して感謝してもよかろう」

 (実年齢が)若い時に呼ばれていた二つ名を振りかざし、叔母は更に胸を反らす。

 あ。

 そこで、ようやくアディマは気づいた。

 親族とは言え、彼は叔母の魔法能力を詳しくは知らない。

 助けるというからには、その魔法が使える、ということか。

 希望が、そこにあるというのだ。

「いくらでも…ひれ伏しましょう」

 アディマが、瞼を伏せかけた時。

「気持ち悪いわ。兄者の半分くらいはふてぶてしくしておれ」

 一体──どうしろと。

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