アリスズ

「さて、殺すか」

 医者を脇に追いやると、叔母はいきなり不穏な発言を口にする。

 アディマは立ち合いながらも、その空気の読めない物言いに、若干の非難の視線を込めた。

「まあ、半分は冗談抜きだ。魔法は、万能ではないからな」

 使い方次第だ。

 叔母は、右手を一度拳にして開いた。

 脂汗を浮かべて痛みをこらえるダイを見下ろし、彼女は長い髪を二本引き抜いて右手と左手に1本ずつ巻きつける。

「1本で、健康な身体を最低限残して止める。もう1本で、傷の部分を治癒させる」

 治癒の魔法は、アディマも知っている。

 だが、それはあくまでも、命に関わらない傷への治癒に使うのだ。

 こんな、魔法を受ける側の命を賭けるような使い方を見るのは、初めてだった。

「私はこれで二人殺して、四人助けた」

 放っておいたら、六人死んでたがな。

 いまだに叔母は、時折放浪の旅に出ると聞く。

 その無茶な生活の上で、こんな乱暴な技を手に入れたのだろうか。

「めった斬りにされて生き残った男に会いたければ、うちに来るといいぞ」

 さあ。

 叔母は右手と左手に、それぞれ金と灰色の炎を浮かべた。

 金は、太陽の力。

 灰色は──死の力。

 その灰色の左手を、叔母はダイの額に乗せた。

 死が。

 死が、少しずつ彼を侵食してゆくのが分かる。

 脂汗が止まり、その顔からは苦痛が消えてゆく。

 その代わり。

 顔色が、青く青くなってゆくのだ。

 叔母は、手をそのままにダイの胸へと耳をあてた。

 彼の心音を、耳で拾っているのだろう。

「もうちょっと、死んでいいぞ」

 右手の金の炎を、空中で燃やしながら、叔母の口元がニヤリと上がる。

 もう少し、穏やかな表現はないものか。

 アディマは、豪傑すぎる親戚に、ため息を呑み込まなければならなかった。
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