アリスズ
□
「さて、殺すか」
医者を脇に追いやると、叔母はいきなり不穏な発言を口にする。
アディマは立ち合いながらも、その空気の読めない物言いに、若干の非難の視線を込めた。
「まあ、半分は冗談抜きだ。魔法は、万能ではないからな」
使い方次第だ。
叔母は、右手を一度拳にして開いた。
脂汗を浮かべて痛みをこらえるダイを見下ろし、彼女は長い髪を二本引き抜いて右手と左手に1本ずつ巻きつける。
「1本で、健康な身体を最低限残して止める。もう1本で、傷の部分を治癒させる」
治癒の魔法は、アディマも知っている。
だが、それはあくまでも、命に関わらない傷への治癒に使うのだ。
こんな、魔法を受ける側の命を賭けるような使い方を見るのは、初めてだった。
「私はこれで二人殺して、四人助けた」
放っておいたら、六人死んでたがな。
いまだに叔母は、時折放浪の旅に出ると聞く。
その無茶な生活の上で、こんな乱暴な技を手に入れたのだろうか。
「めった斬りにされて生き残った男に会いたければ、うちに来るといいぞ」
さあ。
叔母は右手と左手に、それぞれ金と灰色の炎を浮かべた。
金は、太陽の力。
灰色は──死の力。
その灰色の左手を、叔母はダイの額に乗せた。
死が。
死が、少しずつ彼を侵食してゆくのが分かる。
脂汗が止まり、その顔からは苦痛が消えてゆく。
その代わり。
顔色が、青く青くなってゆくのだ。
叔母は、手をそのままにダイの胸へと耳をあてた。
彼の心音を、耳で拾っているのだろう。
「もうちょっと、死んでいいぞ」
右手の金の炎を、空中で燃やしながら、叔母の口元がニヤリと上がる。
もう少し、穏やかな表現はないものか。
アディマは、豪傑すぎる親戚に、ため息を呑み込まなければならなかった。
「さて、殺すか」
医者を脇に追いやると、叔母はいきなり不穏な発言を口にする。
アディマは立ち合いながらも、その空気の読めない物言いに、若干の非難の視線を込めた。
「まあ、半分は冗談抜きだ。魔法は、万能ではないからな」
使い方次第だ。
叔母は、右手を一度拳にして開いた。
脂汗を浮かべて痛みをこらえるダイを見下ろし、彼女は長い髪を二本引き抜いて右手と左手に1本ずつ巻きつける。
「1本で、健康な身体を最低限残して止める。もう1本で、傷の部分を治癒させる」
治癒の魔法は、アディマも知っている。
だが、それはあくまでも、命に関わらない傷への治癒に使うのだ。
こんな、魔法を受ける側の命を賭けるような使い方を見るのは、初めてだった。
「私はこれで二人殺して、四人助けた」
放っておいたら、六人死んでたがな。
いまだに叔母は、時折放浪の旅に出ると聞く。
その無茶な生活の上で、こんな乱暴な技を手に入れたのだろうか。
「めった斬りにされて生き残った男に会いたければ、うちに来るといいぞ」
さあ。
叔母は右手と左手に、それぞれ金と灰色の炎を浮かべた。
金は、太陽の力。
灰色は──死の力。
その灰色の左手を、叔母はダイの額に乗せた。
死が。
死が、少しずつ彼を侵食してゆくのが分かる。
脂汗が止まり、その顔からは苦痛が消えてゆく。
その代わり。
顔色が、青く青くなってゆくのだ。
叔母は、手をそのままにダイの胸へと耳をあてた。
彼の心音を、耳で拾っているのだろう。
「もうちょっと、死んでいいぞ」
右手の金の炎を、空中で燃やしながら、叔母の口元がニヤリと上がる。
もう少し、穏やかな表現はないものか。
アディマは、豪傑すぎる親戚に、ため息を呑み込まなければならなかった。