アリスズ

「あっはっは、このちっこいのに惚れてるのか…あっはっはっはっは」

 景子は、頭をがっしがっしとおさえられた。

 アディマの叔母によって。

 叔母といっても、景子の実年齢よりも若い姿を持っている。

 年齢詐欺の実力が、ここでも炸裂していた。

 ち、ちぢむ。

 頭にのしかかる衝撃は、痛いというよりも重い。

 こうやって豪快に笑い飛ばされたおかげで、景子はアディマの発言について、わりと気楽に流すことが出来た。

 彼が、どれほど本気になってくれても、周囲にとっては笑い話レベルなのだ。

 だが。

 今日、アディマが刺されたかもしれないと聞いて、本当に心臓が止まるかと思った。

 もし、彼が死んでいたら、自分はどうなっていただろうか。

 心の多くを、アディマに奪われていることを、景子は嫌というほど自覚したのだ。

 生きて、元気でいてくれたらいいや。

 ただ、好きと欲が一致しない。

 昔から身体にしみついている、あきらめ根性のせいだろうか。

 どう考えても、うまくいかないよね──そう思うと、欲のフタがぱたっと閉じてしまう。

 開けると、周囲を巻き込んで悪い結果になるから。

 だから。

 こんな風に、笑い飛ばされると楽だった。

 ああ、箱を開けなくてよかった、と。

「で…そんなことを私に聞かせて、どうしようというのだ?」

 爆笑をしまいこみながら、しかし、声にだけは笑みの響きを残しつつ、イデアメリトスの血を引く女性は──景子の頭を、ひじ掛けにした。

 ずしっと体重がかかり、ますます彼女の身長を縮めようとする。

「いいえ、何も? ただ、お知らせしておきたかっただけです…あ、言い忘れてました…ケイコは、使えますよ」

 挑発的な叔母の言葉に、あのアディマが更に挑発しかえすような響きの声で応戦する。

 そして、右手を一度閉じて開くのだ。

「ほう…」

 手の動きに、女性は目を吊り上げるように細めた。

 その目が。

 アディマから景子に向けられる。

「それは、面白い」

 何を。

 おいてけぼりの景子は、彼女のひじ掛けになったまま、二人のイデアメリトスを見上げるしか出来なかった。
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