アリスズ
☆
「はっはっは、農林府の役人よ! この娘は、しばらくイデアメリトスの日向花が預かると、上司に伝えておけ!」
視界が、ぐりんと回って揺れる。
景子は、アディマの叔母の肩に担ぎ上げられていたのだ。
そして──そのまま連れ去られることとなる。
大きく揺れる視界に、手を伸ばしかけて動けないでいるネイディがいた。
だが。
アディマは、追いかけなかった。
扉から景子の連れ去られる姿を見てはいるが、叔母を止めようとはしなかったのだ。
なーんーでー??
後方にうねりながら飛ぶ、美しい黒髪の波にのまれながら、景子はアディマの行動について、きちんと考えられなかった。
驚きと衝撃で頭の芯までバクバクしながら、景子は荷馬車に放り込まれたのである。
あわわわわ。
荷馬車の隅っこでへたりこんだまま、彼女は乗り込んでくるイデアメリトスの女性を見た。
「出せ!」
彼女の大声と共に、がこん、と大きく馬車が揺れて動き出す。
「ロジューストラエヌル=イデアメリトス=ソレイクル16だ」
目を白黒させている景子を、彼女はわずかに揺らぎもせず立ったまま見下ろした。
幌を高く作ってあるのか、ロジューと名乗った女性の頭がぶつかることはない。
だが、この揺れる足もとでも、びくともしないのだ。
この国では、領主たちよりもイデアメリトスの人間の方が、頑丈でなければならないように思える。
「ケ、ケイコです」
迫力に気おされながらも、名乗らなければならない状態になって、彼女は言いなれた自分の名前を出す。
どうしても、フルネームで名乗るのが苦手だった。
こちら風の正式名称になると、いまの彼女の脳みそでは、思い出せもしない。
「はぁん…ケーコ、ケーコ、ケーコ」
口の中で転がすように、景子の名前を連呼する。
「了解した、ケーコ…今日からしばらくお前は、私の『馬』になれ」
いま引いている馬の片方の名前は、『ケールリ』だ。
付け足された言葉に、景子はがっくりと肩を落とす。
馬の名前によく似ていて、同じように名前が短いから──彼女は、残念ながらまだ人類として認められていないようだった。
「はっはっは、農林府の役人よ! この娘は、しばらくイデアメリトスの日向花が預かると、上司に伝えておけ!」
視界が、ぐりんと回って揺れる。
景子は、アディマの叔母の肩に担ぎ上げられていたのだ。
そして──そのまま連れ去られることとなる。
大きく揺れる視界に、手を伸ばしかけて動けないでいるネイディがいた。
だが。
アディマは、追いかけなかった。
扉から景子の連れ去られる姿を見てはいるが、叔母を止めようとはしなかったのだ。
なーんーでー??
後方にうねりながら飛ぶ、美しい黒髪の波にのまれながら、景子はアディマの行動について、きちんと考えられなかった。
驚きと衝撃で頭の芯までバクバクしながら、景子は荷馬車に放り込まれたのである。
あわわわわ。
荷馬車の隅っこでへたりこんだまま、彼女は乗り込んでくるイデアメリトスの女性を見た。
「出せ!」
彼女の大声と共に、がこん、と大きく馬車が揺れて動き出す。
「ロジューストラエヌル=イデアメリトス=ソレイクル16だ」
目を白黒させている景子を、彼女はわずかに揺らぎもせず立ったまま見下ろした。
幌を高く作ってあるのか、ロジューと名乗った女性の頭がぶつかることはない。
だが、この揺れる足もとでも、びくともしないのだ。
この国では、領主たちよりもイデアメリトスの人間の方が、頑丈でなければならないように思える。
「ケ、ケイコです」
迫力に気おされながらも、名乗らなければならない状態になって、彼女は言いなれた自分の名前を出す。
どうしても、フルネームで名乗るのが苦手だった。
こちら風の正式名称になると、いまの彼女の脳みそでは、思い出せもしない。
「はぁん…ケーコ、ケーコ、ケーコ」
口の中で転がすように、景子の名前を連呼する。
「了解した、ケーコ…今日からしばらくお前は、私の『馬』になれ」
いま引いている馬の片方の名前は、『ケールリ』だ。
付け足された言葉に、景子はがっくりと肩を落とす。
馬の名前によく似ていて、同じように名前が短いから──彼女は、残念ながらまだ人類として認められていないようだった。