アリスズ

 領主の屋敷からほどなくして、荷馬車は別の屋敷へと入っていった。

 アディマの叔母であるロジューは、この町に住んでいるようだ。

「さあ、ケールリとレップスを離せ。お前も、どこなりと好きに走るがいい」

 ロジューは荷馬車からひらりと降りながら、大きな声で御者に命じた。

 すぐさま馬は離され、待っていたかのように2頭は広い敷地を駆け回り始める。

 ええと。

 いま、馬の後に告げられた『お前』というのは、景子のことなのだろう。

 まさに、馬と同列に扱われている。

 まあ、自由にしていいってこと、かな。

 景子は、おそるおそる荷馬車から降りて、周囲を見回した。

 屋敷の脇に、濃い緑に繁る、ワイルドなジャングルが目に入る。

 ジャングルとしか表現出来ないのは、この中暑季地域にきて、見たことのない植物が、好き放題に伸びているからだ。

 景子は、足が勝手にそこへ向かって行くのを止められなかった。

 そのジャングルは、外側の植物の力がとても弱い。

 しかし、内側に進むに連れ、生命力溢れる力を放っている。

 そして。

 一歩進むごとに、草を分け入るごとに、熱と湿度が増してゆく。

 一体、どうやって。

 その答えは、ジャングルの中心にあった。

 巨大な大なべで、ぐらぐらと湯を沸かしていたのだ。

 火の番をしている汗だくの男が、突然の訪問者である景子にぎょっとした。

 あー、あはは。

 景子は、おかしくなって笑ってしまった。

 何という、力技。

 南国の植物を育てるのに、こうしてずっと火を焚いているというのか。

 すさまじい贅沢の仕方だった。

 しかし、あの豪快なロジューらしい。

 彼女は、南の植物がきっと気に入ってしまったのだ。

 それを手元に置きたいと考え、そして実行した。

 方法こそ乱暴であれど、人のこうした無茶な行動が、だんだんと進化するヒントになってゆくのだろう。

 熱と湿度に包まれながら、景子は少しだけ、ロジューのことが好きになったのだった。
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