アリスズ

「はぁ? 温かい部屋?」

 夕食の時。

 馬と言われたものの、景子はロジューの食事に同席させられていた。

 小さな生き物が、彼女の足もとで食事をしているのが見える。

 いまは、あれと同列の扱いなのだろうか。

「はい、硝子を張った家の中は、とても温かいです」

 この世界にない『温室』という言葉を伝えるために、景子はそう表現したのだ。

「家の中では、太陽が足りないではないか」

 話にならないと言わんばかりに、ロジューは食器を一度爪先で鳴らす。

「ですから、壁も天井も、全部硝子で作ります」

 そう言った時の、彼女の顔ときたら。

 大きな目を、更に三倍くらい見開いたのだ。

 景子が、びくっとしてしまうほどの迫力のある瞳だった。

 だが、その直後。

「硝子で天井を…あっはっはっは、それはいい。そうか、硝子は窓や瓶だけに使うものではないか」

 ロジューは、自分の身体を抱えるように大笑いを始めるではないか。

「馬鹿馬鹿しいことを、真面目に考えるのだな、ケーコは。ああ、本当に馬鹿馬鹿しい」

 苦しそうに顎を上げ、ひとしきり笑い終えた後、彼女は目をぎらっと光らせて、景子の顔を見る。

「しかし、硝子だけで作ると、その重みで割れてしまいそうだがな」

「枠は木で作ります。格子状に木を組んで、間に硝子をはめていくので、1つあたりの硝子は、そう大きくなくて済みます」

 景子の説明に、ロジューはふむと呟く。

 そして。

 その長い褐色の指先を、水の入った杯の中に、いきなり突っ込んだのだ。

 何をするのかと思いきや。

 彼女は水で濡れた指で、テーブルクロスに何かを描き始める。

 何度か、杯に指をひたしながら。

「こんな、かんじか?」

 うなるロジューの元へと、景子は席を立って近づいていった。

 窓のたくさんある家、のようなものが描かれている。

「ええと…」

 そして、景子もまたテーブルクロスと水を使った、お絵かきに参戦することとなったのだった。
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