アリスズ

 そういえば。

 景子は、きょろきょろした。

 温室の件で、何度かロジューの部屋に呼び出されているのだが、『それ』らしい気配はない。

「何だ?」

 彼女の態度に、この屋敷の主はいつも通り、上から見下ろす声を出す。

 ソファに座っているはずなのに、どうしてもそう思えてしまうのが不思議だ。

「あ、いえ…」

 個人的な興味と質問だったので、それを言うのははばかられた。

 どこに地雷があるか分からないのだ、この女性は。

「気持ち悪いな。さっさと言え」

 だが。

 がぶりと、食らいついたら離さない。

 景子は、既に自分の首にロジューが食らいついているのが分かって観念した。

「いえ…旦那さんはいらっしゃらないのかなと…素朴な疑問で」

 アディマの叔母である。

 たとえ、本当に実年齢が若いにしても、イデアメリトスの旅を成功させたという彼女に、何の縁談も来ないのはおかしく思ったのだ。

「結婚などしてない」

 だが、ズバァっと一刀両断された。

「ええー!?」

 意外すぎて、景子はその驚きをつい音にしてしまう。

「イデアメリトスの男と結婚するなんて、うんざりでな」

 テーブルに置かれていた、ジャングルで実っていた南国の果物をひっつかむと、忌々しさを込めたようにかぶりつく。

 いや、うんざりという気分で許されることなのだろうか。

「だが、私に娘がいなくてよかったと、お前は思わないのか?」

 は?

 突然振られた話の展開に、景子の脳はついていけなかった。

「もし、私に娘がいたら…間違いなく、あの愚甥の嫁候補筆頭になっていたからな」

 くくくくく、と。

 底意地の悪い瞳が、彼女に向く。

 ええと。

 ロジューの子ならば、アディマの従姉妹になる。

 彼女の言い方からすると、イデアメリトスは、イデアメリトスと結婚するしきたりなのだろう。

 そこに、景子が出てくる理由と言えば。

 アディマの言う、景子伴侶説を丸呑みにしているということ。

 わ、笑い飛ばしたんじゃないんですかぁぁぁ!
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