アリスズ

 ロジューは、気に入った面白いことには、すぐさま手をつけなければ気がすまないようだ。

 翌日には、大工と硝子職人の両方を呼びつけて、温室作戦を開始したのである。

 ただ。

 いきなり、あのジャングルを囲うような大掛かりな建物の依頼をしたものだから、大工も硝子職人も戸惑っていた。

 景子も、さすがにそれは止めた。

「何故だ?」

 お前が出した意見だろうと、ロジューは立腹の様子だ。

「小さいものを試しに作って、効果や改良すべきところを確認してから大きいものを作った方がいいと思います」

 そんな風に熱弁をふるい、ようやく彼女は折れてくれたのである。

 設計の打ち合わせに、景子も参加した。

 学校のように、板と粉で絵を描いて説明したり。

 紙とインクを使っていいと言われはしたが、勿体なくて使えるものではない。

 硝子職人は、同じ大きさの硝子を作る作業に入って、逆に屋敷にはこなくなった。

 一度、見本が届けられただけだ。

 そして。

 ついに、温室は作られ始めた。

 景子はそれを、どきどきしながら見守った。

 ある意味、これは農林府の仕事と関係のあることだと、自分的に納得させてここにいる。

 でなければ、さすがに何日も職場を放り出して、ここに居座るなど出来なかった。

 温室という、新しい植物への環境を作ることは、可能性が広がるきっかけになるかもしれない。

 この施設を、景子が農林府で提案したとしても、採用されるまで相当な時間がかかるだろう。

 だが、ここはロジューの個人的な庭で、そして個人的な資金で作られるものだ。

 彼女が了解すれば、それだけで実際に建ってしまうのである。

 人の財力の尻馬に乗っている感は否めなかったが、『全力で協力するから許して下さい』と、心の中でロジューに手を合わせていた。

 そんな建築現場から、荷馬車の準備が行われているのが見える。

 ロジューが、出かけるのだろうかと見ていると。

 現れた彼女が、景子の方に歩いてくるではないか。

「出かけるぞ」

 わしっと。

 おもむろに、彼女の手を掴んで引きずりはじめる。

 わ、わ、わ、わたしもーー??
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