アリスズ

「愚甥から、呼び出しが来てな」

 叔母を呼び出すとは、いい身分だ。

 荷馬車の中で、ロジューは想像上の甥を指で爪弾くような仕草をしてみせた。

 アディマが!?

 景子の心臓は、ぴょこんと一度跳ねる。

 この荷馬車に景子も積み込まれたということは、彼に会えるということだ。

 嬉しいなあ。

 ついつい、彼女は顔を緩めてしまった。

 そんな景子のしまりのない顔を。

 じーーー。

 ロジューの、強いまなざしが見ている。

 はっと我に返り、景子は口元を引き締めた。

「イデアメリトスに会うと聞いて、へらへら笑ってるのは、お前くらいだな。大体、私もイデアメリトスだぞ」

 景子が、全然かしこまったり緊張したりしないことを、どうもロジューは怪訝に覚えているようだ。

 いや、緊張しないわけじゃないけど。

 慣れというものは恐ろしいもので。

 自分に対して、怖いことや嫌なことをしてこない相手だと分かると、安心するだけだ。

 それに。

 前に、アディマが言っていたことを、景子はしっかりと噛みしめた。

 彼女にとって、本当にイデアメリトスというものは、拘束力を持っていないのだ。

 魂に、それが刻まれていない、と言えばいいか。

 だから、この国で偉い人だとは分かるのだが、偉さの現実味がわかなかった。

「まあいい…ところで、お前も魔法を使えると聞いたが」

 突然の話の転換に、景子はすぐについていけなかった。

 アディマは、そんなことまで彼女に話したというのだろうか。

「魔法…なのかなぁ…」

 景子は、ロジューを見た。

 美しい輝きを放つ、イデアメリトスの光が見える。

 髪が年齢を止めるせいか、その若々しい光には翳りがなかった。

「もし、お前が生まれながらにしてそれを持っているというのならば…きちんと磨くのだ。磨かねば、魔法などただの芸と変わらぬのだからな」

 あいたたたたた。

 何故か、ロジューの言葉は──痛かった。
< 227 / 511 >

この作品をシェア

pagetop