アリスズ

「面白い娘だな」

 叔母の一言目が、それだった。

 アディマとロジューが二人きりになった、応接室でのこと。

 彼が、わざわざ叔母を呼びたてたのである。

 表向きは、まもなく出立するという挨拶のため。

 叔母の乱暴な魔法のおかげで、ダイは信じられない速さで回復をしている。

 本来ならば、もう少し休息を取らせたかったのだが、本人がどうしても出立したいと言い張るのだ。

 自分の失態で、旅が遅れるのが耐えられないのだろう。

「そうですか…」

 とりあえず、アディマはほっとした。

 気性の荒い叔母に、どうやらケイコは気に入られたようだ、と。

 彼女を預けたのは、一人でも多い味方を手に入れるためだった。

 味方になってくれ。

 そんな言葉で、心を動かすイデアメリトスはいない。

 ケイコを直接放り込んで、本人の意思で気に入ってもらわなければならなかった。

 だからこそ、アディマは叔母の暴挙を止めなかった。

 それどころか、一番最初にロジューを煽ったのは、彼自身なのだ。

「いま、うちでは温かい部屋なるものを作っているぞ」

 くくく。

 何かを思い出したらしく、叔母は心底楽しそうに笑う。

 珍しい物好きの彼女の、好奇心を満足させるものを、ケイコが出してきたようだ。

「僕が、都に帰ったら、祭りが始まります」

 彼女の存在を、ゆっくりと噛みしめながら、アディマは本題を口にした。

「お前が死ななければ、な」

 さっくりと、叔母は斬りつけてくる。

 前回の油断という傷口を、容赦なくえぐってくるのだ。

「死にませんよ…それで、祭りになったら…叔母上様も、都へいらっしゃいますよね?」

 叔母の一撃を、さらりと蹴り飛ばしながら、アディマはゆっくりと問いかけた。

 おそらく、来るとは分かってはいるのだが、念を押したかったのだ。

 すると。

 叔母は、糸目になってアディマを見るではないか。

「ケーコなら…温かい部屋が出来るまでは、都に返さんぞ」

 彼の意図など──すっかりお見通しだと言わんばかりに。
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