アリスズ
☆
アディマたちは、今度こそ旅を成功させるべく、旅立って行った。
見送りはできなかった。ロジューが、行かなかったからだ。
景子は、今度こそ彼らの無事を祈りながら、温室の完成を急いでいたのだった。
だが、数日後。
「まったく、どいつもこいつも!」
ロジューが、頭から湯気を出しながら景子の部屋にやってくる。
ノッカーもなしに、どかんとドアを開けられるのは毎度の事だ。
いまだ、ペットから昇格していない景子だった。
そして、どすんとソファを占領するや、彼女を睨み上げてくる。
いまは、景子に対して怒っていないことは分かっているのだが、その瞳の迫力に、反射的にびびってしまう。
ロジューの気性の荒さには、大分慣れたつもりだったのだが。
「この町を空にする気か…あほうどもめ」
景子を睨みつつ、ぶすくれた唇が不思議な内容を綴る。
「祭だよ、祭! 都の祭が始まるおかげで、この町の者どもは、商売と見物に都詣でだ」
おかげで、大工も硝子職人も、休みをくれと言ってきた──イデアメリトスの日向花は、憎たらしいため息を吐きだすのだ。
「はぁ…祭ですか」
景子は、それを言葉にして。
そして。
直後に、理解した。
「ま、祭って、えええー!? アディマが都に無事についたってことですか!?」
驚きと喜びで、目が飛び出しそうになる。
それに、ロジューはうるさそうに顔を顰めた。
「あれから何日たったと思っている…まだ到着していないなら、逆に大騒ぎではないか」
ぶつぶつと続ける彼女の声など、もはや景子には聞こえていなかった。
やった、やった!
心の中でぴょんぴょんと飛び跳ねながら、アディマの旅の成功を、心行くまで噛みしめる。
余りの喜びに、景子の目が潤みそうになった時。
「おかげで、私も都へ行かねばならぬ…ああ、面倒くさい。旅に出ていればよかったわ」
都へ!?
景子は、その響きに捕まって、潤みかけた目で、彼女を正面から見つめてしまった。
「そこまで期待した目を向けられたら…逆にへし折ってやりたくなるのう」
ロジューは──半目になりながら、ひどい意地悪を言い放ったのだった。
アディマたちは、今度こそ旅を成功させるべく、旅立って行った。
見送りはできなかった。ロジューが、行かなかったからだ。
景子は、今度こそ彼らの無事を祈りながら、温室の完成を急いでいたのだった。
だが、数日後。
「まったく、どいつもこいつも!」
ロジューが、頭から湯気を出しながら景子の部屋にやってくる。
ノッカーもなしに、どかんとドアを開けられるのは毎度の事だ。
いまだ、ペットから昇格していない景子だった。
そして、どすんとソファを占領するや、彼女を睨み上げてくる。
いまは、景子に対して怒っていないことは分かっているのだが、その瞳の迫力に、反射的にびびってしまう。
ロジューの気性の荒さには、大分慣れたつもりだったのだが。
「この町を空にする気か…あほうどもめ」
景子を睨みつつ、ぶすくれた唇が不思議な内容を綴る。
「祭だよ、祭! 都の祭が始まるおかげで、この町の者どもは、商売と見物に都詣でだ」
おかげで、大工も硝子職人も、休みをくれと言ってきた──イデアメリトスの日向花は、憎たらしいため息を吐きだすのだ。
「はぁ…祭ですか」
景子は、それを言葉にして。
そして。
直後に、理解した。
「ま、祭って、えええー!? アディマが都に無事についたってことですか!?」
驚きと喜びで、目が飛び出しそうになる。
それに、ロジューはうるさそうに顔を顰めた。
「あれから何日たったと思っている…まだ到着していないなら、逆に大騒ぎではないか」
ぶつぶつと続ける彼女の声など、もはや景子には聞こえていなかった。
やった、やった!
心の中でぴょんぴょんと飛び跳ねながら、アディマの旅の成功を、心行くまで噛みしめる。
余りの喜びに、景子の目が潤みそうになった時。
「おかげで、私も都へ行かねばならぬ…ああ、面倒くさい。旅に出ていればよかったわ」
都へ!?
景子は、その響きに捕まって、潤みかけた目で、彼女を正面から見つめてしまった。
「そこまで期待した目を向けられたら…逆にへし折ってやりたくなるのう」
ロジューは──半目になりながら、ひどい意地悪を言い放ったのだった。