アリスズ
☆
「あ、私はこの辺でいいです」
荷馬車は、夜の内に都へと入った。
祭が始まるということで、夜通し門は開かれたまま。
普段夜をいやがる町でさえも、煌煌と火をともして騒がしかった。
この明るさなら、リサーの叔父の屋敷まで歩きで帰れそうだと思えるほど。
「あん? 何を言っている。お前は私の身の回りの世話をするために来たのだろう?」
不機嫌な声が、しかし、とんでもないことを言い出す。
「え? え? そ、そんなの聞いてないですよ」
景子は、屋敷と農林府と──そんな理屈が、通る相手ではなかった。
「都へ連れて行くとは言ったが…誰が帰っていいと言った」
ああああ。
ロジュー節、炸裂だ。
『しょうがない、お前も荷馬車に積んでいくか』
これが、彼女の言葉だった。
景子は、てっきり都で放し飼いにしてくれると思っていたのだが、ロジューは、そのまま自分の側付きにしておく気だったのである。
が、硝子まで持ってきたのにぃ。
これでは、意味がなかった。
この硝子を細かく砕いて、砂地の畑に混ぜ、試験をするつもりだったのだ。
保水力が上がると、昔聞いたことがあったので。
それに、これまで試験して放置していた畑もある。
結果も見て来たかったのにー。
景子は。
どこまで行っても、植物馬鹿だった。
そんな、彼女の気持ちなど興味もないように、ロジューはくくくく、と笑う。
「どうして、そこで悲しむのだ。滅多に入れない、イデアメリトスの宮殿に入れるんだぞ? もっと、盛大に喜べ」
そんなものを、本人はちっともありがたがっていない癖に、景子には押しつけるのか。
彼女だって、そんな建物よりも畑の方が気になるのだ。
ん? 宮殿?
そこでふと、景子の意識が止まった。
宮殿と呼ばれるものの外側くらいは、都に住んでいた景子は見たことくらいはある。
これまでは、大きいなーくらいしか思っていなかったそこに。
いまは。
アディマが、いるのだ。
あう。
相変わらず、畑の方に後ろ髪を引きずられながらも、景子はほんのちょっとだけ宮殿へと心が傾きかけてしまった。
「あ、私はこの辺でいいです」
荷馬車は、夜の内に都へと入った。
祭が始まるということで、夜通し門は開かれたまま。
普段夜をいやがる町でさえも、煌煌と火をともして騒がしかった。
この明るさなら、リサーの叔父の屋敷まで歩きで帰れそうだと思えるほど。
「あん? 何を言っている。お前は私の身の回りの世話をするために来たのだろう?」
不機嫌な声が、しかし、とんでもないことを言い出す。
「え? え? そ、そんなの聞いてないですよ」
景子は、屋敷と農林府と──そんな理屈が、通る相手ではなかった。
「都へ連れて行くとは言ったが…誰が帰っていいと言った」
ああああ。
ロジュー節、炸裂だ。
『しょうがない、お前も荷馬車に積んでいくか』
これが、彼女の言葉だった。
景子は、てっきり都で放し飼いにしてくれると思っていたのだが、ロジューは、そのまま自分の側付きにしておく気だったのである。
が、硝子まで持ってきたのにぃ。
これでは、意味がなかった。
この硝子を細かく砕いて、砂地の畑に混ぜ、試験をするつもりだったのだ。
保水力が上がると、昔聞いたことがあったので。
それに、これまで試験して放置していた畑もある。
結果も見て来たかったのにー。
景子は。
どこまで行っても、植物馬鹿だった。
そんな、彼女の気持ちなど興味もないように、ロジューはくくくく、と笑う。
「どうして、そこで悲しむのだ。滅多に入れない、イデアメリトスの宮殿に入れるんだぞ? もっと、盛大に喜べ」
そんなものを、本人はちっともありがたがっていない癖に、景子には押しつけるのか。
彼女だって、そんな建物よりも畑の方が気になるのだ。
ん? 宮殿?
そこでふと、景子の意識が止まった。
宮殿と呼ばれるものの外側くらいは、都に住んでいた景子は見たことくらいはある。
これまでは、大きいなーくらいしか思っていなかったそこに。
いまは。
アディマが、いるのだ。
あう。
相変わらず、畑の方に後ろ髪を引きずられながらも、景子はほんのちょっとだけ宮殿へと心が傾きかけてしまった。