アリスズ
☆
ボンッッ!
激しい音と風が発生し、反射的に景子は耳を塞いだ。
そんな中、爆風で髪を後方になびかせながらも、ロジューは微動だにせず、そこに立ち続けている。
手も、下ろさない。
ええと。
景子が、うまく思考をまとめられずにいると、何事かと使用人たちが駆けつけてくる。
「何でもない…さがれ」
だが。
手を下ろしながら、ロジューは彼らを追い返した。
何でもなく、ないんじゃ…。
景子は、口をはさめないまま、彼女の後ろ姿を見上げる。
ロジューは、こう言ったではないか。
『死の魔法』、と。
誰かが、この部屋にそれを仕掛けた、と。
それだけで、彼女の命が誰かから狙われているという証拠には、ならないのか。
犯人を探して捕まえないと。
景子は、あくまで一般論で物事を考えようとしていた。
だが。
そういうシンプルな問題では、なかった。
「中に入って扉を閉めろ」
先に足を踏み入れながら、ロジューが彼女に指示をする。
まだ離れようとしない使用人もいる中、景子は言われた通りにする。
パタン。
扉をしめて振り返ると。
ロジューが、髪をもう一本引き抜いて、自分の右手に縛りつけるところだった。
緑の炎が、そこに生まれる。
彼女が、それを手から放つと、室内に風が渦巻き始めた。
オーケストラの指揮のように、ロジューは風を操つり、部屋を元通りにしてゆく。
そして、最後に風は──この中暑季の夜の部屋を、涼しげに巡回し始めたのだ。
魔法エアコン。
空気を読めない景子の頭が、奇妙な造語を頭の中で巡らせてしまった。
「さて、と…」
ロジューが椅子に腰かけ、景子の方を振り返る。
「お前には…さっき見聞きしたことは忘れてもらう」
断固とした、声だった。
ボンッッ!
激しい音と風が発生し、反射的に景子は耳を塞いだ。
そんな中、爆風で髪を後方になびかせながらも、ロジューは微動だにせず、そこに立ち続けている。
手も、下ろさない。
ええと。
景子が、うまく思考をまとめられずにいると、何事かと使用人たちが駆けつけてくる。
「何でもない…さがれ」
だが。
手を下ろしながら、ロジューは彼らを追い返した。
何でもなく、ないんじゃ…。
景子は、口をはさめないまま、彼女の後ろ姿を見上げる。
ロジューは、こう言ったではないか。
『死の魔法』、と。
誰かが、この部屋にそれを仕掛けた、と。
それだけで、彼女の命が誰かから狙われているという証拠には、ならないのか。
犯人を探して捕まえないと。
景子は、あくまで一般論で物事を考えようとしていた。
だが。
そういうシンプルな問題では、なかった。
「中に入って扉を閉めろ」
先に足を踏み入れながら、ロジューが彼女に指示をする。
まだ離れようとしない使用人もいる中、景子は言われた通りにする。
パタン。
扉をしめて振り返ると。
ロジューが、髪をもう一本引き抜いて、自分の右手に縛りつけるところだった。
緑の炎が、そこに生まれる。
彼女が、それを手から放つと、室内に風が渦巻き始めた。
オーケストラの指揮のように、ロジューは風を操つり、部屋を元通りにしてゆく。
そして、最後に風は──この中暑季の夜の部屋を、涼しげに巡回し始めたのだ。
魔法エアコン。
空気を読めない景子の頭が、奇妙な造語を頭の中で巡らせてしまった。
「さて、と…」
ロジューが椅子に腰かけ、景子の方を振り返る。
「お前には…さっき見聞きしたことは忘れてもらう」
断固とした、声だった。