アリスズ

 杯は、弾き飛ばされた。

 ロジューによって。

 身体が、突然動かなくなった。

 ダイの強い力によって。

 あれ? なに?

 景子の視線の先のロジューが、怒りに震えていた。

 その怒りを、一切隠さずに彼女の目の前までやってくるのだ。

 長い指が、ぐいっと顎を持ち上げて景子の目を覗き込む。

「随分…回りくどい手に出てきたな。知恵が回るではないか」

 髪を──引き抜く。

 褐色の手が、金色に燃え上がる。

 びくぅっと、景子の身体は震えた。

 その火が、こわくてこわくてしょうがない。

 暴れて逃げようとするが、ダイの腕は決して彼女を離しはしない。

「忘れさせる魔法はないがな…」

 燃え上がる手を、ロジューは景子の目へと近づけてきた。

 それだけで、焼けるように熱かった。

 メガネが、跳ね飛ばされる。

 ストラップのおかげで、床まで落ちることはなかったが、そんなことに景子も構ってはいられなかった。

「人を操る魔法は…あるんだよ!」

 ジュウッ!

 ああああああああああ!!!!!

 痛い、痛い、痛い!!!

 網膜の奥まで、焼き尽くされる痛みでいっぱいになる。

 だが、それだけでは済まなかった。

 痛みに奇妙な声しかあげられない景子の口に、何かが突っ込まれたのだ。

「水に毒など入っていない…そうだろう?」

 暴れる景子の口に、なまあたたかく容赦ない大きな物。

 それが、遠慮なく口の中を探るのだ。

 勝手に動きまわる、乱暴な指の感触だった。

 その手を、彼女が目の痛みの反射で噛んでしまったとしても、まったく引く様子はない。

「口の中に、毒の石を仕込んだのだろう? ああ、本当に頭がいいな」

 景子の口内から、粘膜ごと何かが引き剥がされた。

 なに? なにがおきているの?

 このアディマの叔母に──私は、何をしようとしたの!?
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