アリスズ

 アディマは、西翼へと駆けつけた。

 魔法の身を飛ばす余裕などなく、自ら叔母の部屋の扉を開けたのだ。

「ケイコ!」

 叔母のベッドに横たわるのは、小さい彼女の身体。

「静かにしろ」

 そんな彼女の額に、死の光を与えているのは叔母だった。

 灰色の死が、ケイコの肌を限りなく白くしてゆく。

「何を…ケイコに何をしているんですか!」

 駆け寄ろうとする彼に、もう片手の金の光を見せ付けるように掲げる。

「毒を抜いている…黙ってそこにいろ」

 ああ。

 叔母の言葉に、アディマはよろけた。

 側に控えていたダイに、支えられてしまう有様だ。

 毒が、ケイコの身体を蝕んでいるというの事実が、ひどい重さを伴ってアディマにのしかかってきたのである。

「操られて…いたんですか?」

 恐れていたことが、現実に起きてしまった。

「毒の石なら、そのテーブルの上にある…水に溶ける遅く効く毒だ。ケーコの口の中に仕込まれていた」

 叔母は、忌々しい唇で、アディマに告げる。

「おそらく、ケイコに毒見をすると言わせ、杯に毒を移す気だったのだ…そして、明日の朝あたりに、二人仲良く太陽に召される、という計算だったのだろうな」

 水に溶ける毒。

 唾液で溶け、少しずつケイコの身体に流れ込む。

「操られていたため、目も焼いた…二、三日は何も見えないだろう。まあ、生きていられれば、の話だがな」

 金の炎を右手で燃え上がらせながら、しかし、その手は血で滲んでいる。

 噛まれた跡らしきものも、いくつも残っていた。

 毒の口で、噛まれたに違いない。

 それを、金の炎を灯すことで自らを治療しながら、ケイコの治療もしているのだ。

「私もやりましょう」

 こんなところで、打ちひしがれている場合ではない。

 アディマは、足にしっかりと力を込めて、彼女らの方へと歩きだす。

「ああ、是非そうしろ…両手に太陽を灯せ」

 ロジューの叱咤にも似た声に、アディマは二本の髪を引き抜いた。

 太陽よ。

 両手に金の火を灯す。

 この愛しきものを──どうか救いたまえ。
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