アリスズ

 目が、痛い。

 喉も、口の中も痛い。

 身体中が、痛い。

 その痛みで──景子は目を覚ました。

 覚ましたはずなのに、周囲はとても暗かった。

 真夜中なのだろうか。

 まばたきをしようとしたが、目が痛くて開けていられない。

 メガネを探したかったのに、身体をわずかに動かすだけで、激痛が走った。

「気づいたか?」

 ロジューの声が、上から降ってくる。

 目を開ける。

 あれ。

 光が、何も見えなかった。

 痛い目をこらしても、何も見えない。

 魔法の身体であったとしても、ほんの少しは光がそこにあったというのに。

「……!」

 声を出そうとして、喉が焼けつくように痛んだ。

「いい…まだしゃべれないのだ、お前は。目も見えないが、どっちもそのうち良くなる」

 ロジューのため息混じりの声に、ようやく少しずつ思い出してきた。

 目を焼かれたのだ、と。

 だから、何も見えないのだ。

 彼女は、何故そんなことをしたか。

 それは。

 それは、景子が──自分でも、分からないことをしようとしたから。

「私がここに来た時…お前は、寝こけていたな。おそらく、眠らされていたのだ」

 眠らせる魔法ならば、姿を表さなくても出来る。

 扉の隙間から、魔法を忍び込ませればいいのだと、ロジューは言う。

 記憶を消す魔法がないため、犯人は景子に姿を見られるのを恐れたのだろう。

「そして…部屋に入り、お前を操る魔法をかけた」

 ああ。

 よみがえってゆく記憶。

 ロジューの部屋に入った景子は、水差しから目を離せなかった。

 自分の中に違う誰かがいて、その水をどうしても飲まなければならないという呪縛に捕らわれていたのである。

 景子は、この麗しきロジューを──殺そうとしたのだ。

 目が。

 焼けるように、目が痛いというのに。

 涙があふれ出して止まらなかった。
< 251 / 511 >

この作品をシェア

pagetop