アリスズ

 アディマは。

 ずっと、ケイコについていることはできなかった。

「大丈夫だから、もう行っていいぞ」

 多くの毒を消し、峠を越したケイコを前に、叔母はそう言う。

 まだ、祭は続いているのだ。

 一日に、何度か訪れる祭の儀式を、アディマはやらなければならない。

 まもなく夕暮れになる。

 日が沈む前に、夜も太陽が照らすのだという儀式を、父とせねばならなかった。

 せめて。

 彼に出来る精いっぱいのこととして、ダイを扉の前に置いていくことしかできない。

 これから。

 叔母が、彼女を囮に使うというのに。

 たとえダイでも、イデアメリトスの魔法の前では無力なのだ。

 だが。

 アディマは、彼に言った。

 ロジューと自分以外の、イデアメリトスを見たら、犯人だと思え、と。

 彼の言葉を、決して軽んじないダイの機転と、叔母の魔法の力に賭けるしかなかった。

 そんな、アディマの日暮れの儀式の場に。

 本当は来る必要のない叔母の姿を見つけた時、本当に驚いたのだ。

 ケイコを置いてきたのか、と。

 しかし。

 彼女が、そんな馬鹿な真似をするとは思えなかった。

 おそらく、こちらは魔法の姿。

 既に、叔母の囮作戦は始まっているのだ。

 彼女は、部屋にはいない──それで、敵を釣ろうというのか。

 アディマの胸には、怒りと苦しみと嘆きが詰まっていた。

 叔母の命を狙い、ケイコを巻き込んで殺しかけた、同族がいる。

 もはや。

 もはや、アディマはその同族を許すつもりはなかった。

 たとえそれが──誰であったとしても。
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