アリスズ

 扉が開く。

 それは、本当に微かに。

 微かに開けられた気配に、しかし、景子はうまく反応はできなかった。

 声も出せない、目も見えない、身体も動かせない状態なのだ。

 ただ、陸揚げマグロのように、ベッドに横たわっているしか出来ない。

 ダイは。

 ダイは、大丈夫だろうか。

 部屋の前に、どすんと座っただろうあの男も、イデアメリトスではない普通の男だ。

 彼が、操られなければいいのだが。

 そう。

 景子が、祈った次の瞬間。

「ああ、そうか…お前だったか」

 ロジューの声が──痛切に響いた。

「……!」

 空気が、強く震える。

「護衛は、眠らせたか…よい手並みだな」

「……っ!」

 声にならない悲鳴があがり、人の倒れる音が響く。

「言い訳は出来ないぞ。ここは、私の部屋ではなく、従者の部屋だ。そこに護衛を眠らせて、ノッカーも鳴らさずに入ったのだ…何一つ、お前に言い訳など出来ない」

 苦しげな、ロジューの声。

 そうだ。

 捕まえた相手は、同じイデアメリトスの者。

 犯人が分かったとしても、手離しで喜べるものではない。

「さあ…髪を抜けないように戒めたぞ…共に兄者のところへ行こうではないか」

 その言葉に、甲高い叫び声がかぶる。

「いやぁ! それだけは、やめて!」

 聞き覚えのある、高い声。

「駄目だ…カナルディシーデンファラム。お前は、やってはならないことをした」

 あぁ。

 動けないまま、景子はアディマを思った。

 これから、妹を処罰しなければならない、アディマのことを。

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