アリスズ
△
「聞かないのか?」
弟を置き去りに歩く夜。
随分、長い時間の後に、トーが一言だけ言った。
どうしたもんかな。
菊は、ぽりとこめかみをかく。
そして。
鳴かせてみたいホトトギスに、彼女は──聞く以外のことをしてみることにした。
「私は、おそらくよその世界から来た」
自分の話を、することにしたのだ。
よその国とは、言わなかった。
よその世界と。
「ある夜、地が揺れて、世界は真っ暗になった…気が付いたら、夜空にあの月があった」
人から何かを引き出したいと思うならば、菊もまた、何かをださなければならない。
「三人の女で来た。いまは散り散りだが、みな、それぞれここで生きようとしている」
一人は、太陽の側で。
もう一人も、いつかそこへ行くのだろう。
「私には…まだ、何もすることはない。だから、何をするか…探して旅をしているのだろう」
自分のことは、一番不確かだ。
それに困ることが、ないだけ。
ふと。
男の目が、菊に向けられた。
彼女の中心に、一本の軸を入れたように、すぅっと縦に一度視線を動かす。
「そうか…薄々そうではないかと思ってはいたが」
微かに、トーは笑う。
虚無の向こうに、微かな人間味が混じった。
「お前は…女なのだな」
菊は。
月の下で。
「あっはっはっはっは!」
爆笑してしまった。
そこかよっ!!!
トーにとって、異世界から来たというのは──女である事実以下のようだった。
「聞かないのか?」
弟を置き去りに歩く夜。
随分、長い時間の後に、トーが一言だけ言った。
どうしたもんかな。
菊は、ぽりとこめかみをかく。
そして。
鳴かせてみたいホトトギスに、彼女は──聞く以外のことをしてみることにした。
「私は、おそらくよその世界から来た」
自分の話を、することにしたのだ。
よその国とは、言わなかった。
よその世界と。
「ある夜、地が揺れて、世界は真っ暗になった…気が付いたら、夜空にあの月があった」
人から何かを引き出したいと思うならば、菊もまた、何かをださなければならない。
「三人の女で来た。いまは散り散りだが、みな、それぞれここで生きようとしている」
一人は、太陽の側で。
もう一人も、いつかそこへ行くのだろう。
「私には…まだ、何もすることはない。だから、何をするか…探して旅をしているのだろう」
自分のことは、一番不確かだ。
それに困ることが、ないだけ。
ふと。
男の目が、菊に向けられた。
彼女の中心に、一本の軸を入れたように、すぅっと縦に一度視線を動かす。
「そうか…薄々そうではないかと思ってはいたが」
微かに、トーは笑う。
虚無の向こうに、微かな人間味が混じった。
「お前は…女なのだな」
菊は。
月の下で。
「あっはっはっはっは!」
爆笑してしまった。
そこかよっ!!!
トーにとって、異世界から来たというのは──女である事実以下のようだった。