アリスズ
○
「ウメ、ウメ!」
いつものイエンタラスー夫人の声に、梅はエンチェルクを伴って向かったのだ。
「あら…」
行商の男が、そこにはいた。
夫人御用達の、あの布を縛りつけた男。
いつものように、夫人には珍しい物を、梅には本を取り出してくれる彼だったが、その視線が物言いたげに彼女を見つめてくる。
何か、あったのだろうか。
「ああ…そうだ。テイタッドレック卿のお屋敷に、この後寄られるのでしょう? 返して欲しい本があるのだけれど、配達みたいなことは頼めないかしら」
その視線も気になったので、梅はそう切り出してみた。
言葉にしたことは、嘘ではない。
ただ、別に急ぐことでもないのだ。
「ええ…承ります」
男の視線が、ゆっくりと頷くように動く。
そして、夫人を珍品の前に残し、彼とエンチェルクを伴って、梅は自分の部屋へと戻ったのだ。
男が、ちらりとエンチェルクを横目で見る。
彼女の前で、言っていいかどうか気にしているのだろう。
「構いません…どうぞ」
「???」
梅と男の間の空気に、一人ついていけてないエンチェルクは、落ち着かなくきょろきょろと二人を見る。
「昨夜…」
行商人の男は、語り始めた。
「昨夜…ここより少し南の小街道で、ご姉妹をお見かけしました」
見知らぬ男と、一緒にいたという。
そして、彼はためらいながら、こう続けたのだ。
「あなたのご姉妹は…枯れ木に花を咲かせていました」
あ。
反射的に、梅は自分の唇を塞ぐ。
爆笑しそうになったのだ。
そのため、身体が折れ、肩を大きく震わせる結果になってしまった。
「だ、大丈夫ですか?」
具合が悪くなったと勘違いしたエンチェルクに、「大丈夫よ」と言うまで──ゆうに三分はかかってしまった。
「ウメ、ウメ!」
いつものイエンタラスー夫人の声に、梅はエンチェルクを伴って向かったのだ。
「あら…」
行商の男が、そこにはいた。
夫人御用達の、あの布を縛りつけた男。
いつものように、夫人には珍しい物を、梅には本を取り出してくれる彼だったが、その視線が物言いたげに彼女を見つめてくる。
何か、あったのだろうか。
「ああ…そうだ。テイタッドレック卿のお屋敷に、この後寄られるのでしょう? 返して欲しい本があるのだけれど、配達みたいなことは頼めないかしら」
その視線も気になったので、梅はそう切り出してみた。
言葉にしたことは、嘘ではない。
ただ、別に急ぐことでもないのだ。
「ええ…承ります」
男の視線が、ゆっくりと頷くように動く。
そして、夫人を珍品の前に残し、彼とエンチェルクを伴って、梅は自分の部屋へと戻ったのだ。
男が、ちらりとエンチェルクを横目で見る。
彼女の前で、言っていいかどうか気にしているのだろう。
「構いません…どうぞ」
「???」
梅と男の間の空気に、一人ついていけてないエンチェルクは、落ち着かなくきょろきょろと二人を見る。
「昨夜…」
行商人の男は、語り始めた。
「昨夜…ここより少し南の小街道で、ご姉妹をお見かけしました」
見知らぬ男と、一緒にいたという。
そして、彼はためらいながら、こう続けたのだ。
「あなたのご姉妹は…枯れ木に花を咲かせていました」
あ。
反射的に、梅は自分の唇を塞ぐ。
爆笑しそうになったのだ。
そのため、身体が折れ、肩を大きく震わせる結果になってしまった。
「だ、大丈夫ですか?」
具合が悪くなったと勘違いしたエンチェルクに、「大丈夫よ」と言うまで──ゆうに三分はかかってしまった。