アリスズ

 腰が。

 思いのほか、治らずに苦労した。

 しかし、景子はおとなしく寝ていることが出来ずに、よろよろとジャングルに向かうのだ。

 まだ、温室用の植物の選定は、さっぱり終わっていないのだ。

 立ってうろつくと危ないので、ジャングルの中では、座り込んで作業を始める。

 どうせ、はいつくばるくらいのことはする予定だった。

 この態勢の方が、楽かもしれない。

 背の低い株を選びながら、目印の紐を巻いていく。

 腰がもう少し治ったら、この株を掘り出そうと思ったのだ。

 さすがに、誰か人の手を借りないといけないなあ。

 紐を結びながら、景子がうーんと考え事をしていると。

 その視界に、足が見えた。

 ん?

 足ということは、上に身体がついているワケで。

 景子が、そーっと視線を上に上げると。

 スレイが、立っていた。

「か、か、か、株の選定を…! 今日は転がってるわけじゃありません!」

 回らない舌で、彼女は反射的に言い訳をしていた。

 また怪我をしていると、思われたくなかったのだ。

「立ってみろ」

 言い訳には興味がなさそうに、スレイは噛み合わない一言で、軽く景子を追いつめた。

 一番、触れられたくない部分でもある。

「す、座っていれば仕事は出来ます」

 働いていないと、どうにも落ち着かないのだ。

 好きな植物のことだから、少々の痛みは苦にならないし。

「何故、ロジューストラエヌルに治してもらわない」

 そんな彼女のことを、スレイはきっと理解できないのだろう。

 ため息と共に、ロジューの名前を出す。

「命にかかわりませんから」

 その点だけは、景子はきっぱりと答えた。

 普通の人は、みなそうして治しているのだ。

 腰痛ごときで魔法なんて、ロジューだって甘えるなと言うだろう。

「お前は…」

 ふぅ。

 スレイは、一度目を伏せて。

「お前は…馬鹿だな」

 しみじみと言われると──物凄く傷つくものだと分かった。
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