アリスズ
☆
夕方。
ジャングルから屋敷に、景子がよろよろと戻ると。
「あー…外にいたのか」
嫌そうな顔をしたロジューが、彼女を見つけて声をかけてきた。
「お前の部屋に…客人だ…いや、客人というか…」
珍しく、歯切れの悪い口調だ。
その瞳は、忌々しそうに何かを睨んでいる。
「まったく…」
ぶつぶつと何かを言いながら、ロジューは消えていった。
客?
景子は、その相手が気になってはいたが、のろのろと部屋に戻った。
自分の部屋なのに、ノッカーを鳴らさなければいけない気になり、コツコツと小さく叩いた。
「あのぉ…」
そぉっと扉を開けると。
ソファには、見覚えのある女性が座っていた。
「シャンデル!」
長い旅を、一緒にした女性だ。
「お久しぶりね…」
彼女は、変わらない整った声で答える。
「都について、ブエルタリアメリー様の屋敷に、私もしばらくお世話になっていたんだけれど…あなたはずっと不在だったわね」
そして、視線を部屋の中をぐるりと一回りさせるのだ。
こんなところにいたなんて──そう言いたいのだろう。
「シャンデルは、この町に用事でもあったの?」
景子にしてみれば、彼女がここにいる方が不思議だ。
一緒に旅をしていたが、シャンデルの性質的には、ひとところに落ち着いている方が合っている気がした。
「イデアメリトスの君のお計らいで、こちらで働くことになったの」
その表情は、とても誇らしげだ。
現君主の、妹の屋敷で働けるのである。
彼女からしたら、大出世なのだろうか。
だが。
景子は、さっきのロジューの表情のことを思い出していた。
あの苦い顔は、アディマに向けたものだったのに違いない、と。
そして、そのアディマは。
おそらく、景子のことを気遣って、シャンデルを送り出してきたに違いないのだ。
ああ、またアディマは──叔母に『甘やかすな』と言われるんだろうなぁ。
夕方。
ジャングルから屋敷に、景子がよろよろと戻ると。
「あー…外にいたのか」
嫌そうな顔をしたロジューが、彼女を見つけて声をかけてきた。
「お前の部屋に…客人だ…いや、客人というか…」
珍しく、歯切れの悪い口調だ。
その瞳は、忌々しそうに何かを睨んでいる。
「まったく…」
ぶつぶつと何かを言いながら、ロジューは消えていった。
客?
景子は、その相手が気になってはいたが、のろのろと部屋に戻った。
自分の部屋なのに、ノッカーを鳴らさなければいけない気になり、コツコツと小さく叩いた。
「あのぉ…」
そぉっと扉を開けると。
ソファには、見覚えのある女性が座っていた。
「シャンデル!」
長い旅を、一緒にした女性だ。
「お久しぶりね…」
彼女は、変わらない整った声で答える。
「都について、ブエルタリアメリー様の屋敷に、私もしばらくお世話になっていたんだけれど…あなたはずっと不在だったわね」
そして、視線を部屋の中をぐるりと一回りさせるのだ。
こんなところにいたなんて──そう言いたいのだろう。
「シャンデルは、この町に用事でもあったの?」
景子にしてみれば、彼女がここにいる方が不思議だ。
一緒に旅をしていたが、シャンデルの性質的には、ひとところに落ち着いている方が合っている気がした。
「イデアメリトスの君のお計らいで、こちらで働くことになったの」
その表情は、とても誇らしげだ。
現君主の、妹の屋敷で働けるのである。
彼女からしたら、大出世なのだろうか。
だが。
景子は、さっきのロジューの表情のことを思い出していた。
あの苦い顔は、アディマに向けたものだったのに違いない、と。
そして、そのアディマは。
おそらく、景子のことを気遣って、シャンデルを送り出してきたに違いないのだ。
ああ、またアディマは──叔母に『甘やかすな』と言われるんだろうなぁ。