アリスズ
△
「具合が悪いだろう?」
夜の旅路で、突然トーに言われた。
「は?」
本当に突然で、自覚のないことだったので、菊は怪訝な返事をしてしまった。
その返事をした瞬間。
足元がふわっとした。
反射的に、しっかりと地面を踏みしめたが、そこで菊は気づいたのだ。
たったいま。
熱が上がった、と。
自分の管理は、しっかりとしてきた菊だ。
自覚症状が出れば、すぐに気づくことが出来る。
しかし、トーは彼女が自覚する一瞬前に言い当ててしまった。
宗教家、声楽家。
菊は、彼に似合う仕事を考えていたが、それに新たにひとつ追加しなければならない気がした。
医者。
「いま来た…その通りだよ」
菊は、即座に白旗を揚げた。
無理をすべきところではするが、ここはその場面ではない。
昨日は天気が悪く、南に向かっているというのに、雨が降って冷えたのだ。
おそらく、そのせいだろう。
早めに治しておくに限る。
とは言うものの、いまは真夜中。
しかも、山道だ。
火をたいて、木陰で休むくらいしか方法はないだろう。
だが。
昨日の天気は、ここでも影響を与えていて。
木々が、見事にすべてしけっていたのである。
これでは、マントにくるまって震えているしかなさそうだ。
菊が、あきらめてドスンと座り込んだ時。
トーが──歌い始めた。
小さい音だが、暖かい歌だった。
って、え?
菊は、驚いた。
本当に、周囲の温度が上がり始めたのだ。
「具合が悪いだろう?」
夜の旅路で、突然トーに言われた。
「は?」
本当に突然で、自覚のないことだったので、菊は怪訝な返事をしてしまった。
その返事をした瞬間。
足元がふわっとした。
反射的に、しっかりと地面を踏みしめたが、そこで菊は気づいたのだ。
たったいま。
熱が上がった、と。
自分の管理は、しっかりとしてきた菊だ。
自覚症状が出れば、すぐに気づくことが出来る。
しかし、トーは彼女が自覚する一瞬前に言い当ててしまった。
宗教家、声楽家。
菊は、彼に似合う仕事を考えていたが、それに新たにひとつ追加しなければならない気がした。
医者。
「いま来た…その通りだよ」
菊は、即座に白旗を揚げた。
無理をすべきところではするが、ここはその場面ではない。
昨日は天気が悪く、南に向かっているというのに、雨が降って冷えたのだ。
おそらく、そのせいだろう。
早めに治しておくに限る。
とは言うものの、いまは真夜中。
しかも、山道だ。
火をたいて、木陰で休むくらいしか方法はないだろう。
だが。
昨日の天気は、ここでも影響を与えていて。
木々が、見事にすべてしけっていたのである。
これでは、マントにくるまって震えているしかなさそうだ。
菊が、あきらめてドスンと座り込んだ時。
トーが──歌い始めた。
小さい音だが、暖かい歌だった。
って、え?
菊は、驚いた。
本当に、周囲の温度が上がり始めたのだ。