アリスズ
△
「すごいな…」
歌を止めたトーに、菊は本当に感心したのだ。
マント一枚でも、十分しのげる暖かさに包まれていた。
「歌ならたいしたことはない…ほんの少し、何かを動かすだけだ」
謙遜でもなんでもなく、トーは本気でそう思っているようだ。
ほんの少し。
ほんの少し後押しして、彼は桜を咲かせ、死者をどこかへ送り、気温を上げる。
だが。
歌なら──その表現に、引っかかる。
まだ、トーは隠しているものがあるのだ。
歌以外ならば、もっと大きく何かを動かせるのだと。
「魔法…とかいうものか?」
菊は、熱でぼんやりしながらも、その単語を思い出していた。
アルテンとの旅路で、覚えた言葉だった。
捧櫛の神殿にたどりついた時、イデアメリトスの話になったのだ。
「歌っていればよかったのだ。皆、ただ、歌って暮らせば…」
トーの声には、悔いる感情が染み渡っている。
魔法など、使わなければ──菊には、そう聞こえた。
よく分からないが、魔法はトーにとって危険なものなのだろう。
歌は問題ない、ということか。
「トー…やはり、トーは宗教家になれるな。歌だけで十分に、だ」
暖かさと熱で、うつらうつらしながら、菊は笑っていた。
彼の後悔など、正直どうでもいい。
トーの血族が何をしようが、それは彼らが自分で選んだ結果だ。
そんなものまで、トーが背負う必要などなかった。
それより。
この歌でも、菊にとっては十分魔法に思えた。
魔法は、イデアメリトスだけしか使えないと、一般の人々は信じている。
それ以外の者がちょっとでも使えば、簡単に奇跡の人の出来上がりではないか。
「おかしなことを言うな…お前は」
トーは、困った笑顔を浮かべている。
そんな顔を瞳に残して、菊は目を閉じた。
後は。
この、どこに出しても恥ずかしくない人見知りを、どうにかしなければ。
菊は、そのままぐっすりと眠ってしまった。
朝まで。
「すごいな…」
歌を止めたトーに、菊は本当に感心したのだ。
マント一枚でも、十分しのげる暖かさに包まれていた。
「歌ならたいしたことはない…ほんの少し、何かを動かすだけだ」
謙遜でもなんでもなく、トーは本気でそう思っているようだ。
ほんの少し。
ほんの少し後押しして、彼は桜を咲かせ、死者をどこかへ送り、気温を上げる。
だが。
歌なら──その表現に、引っかかる。
まだ、トーは隠しているものがあるのだ。
歌以外ならば、もっと大きく何かを動かせるのだと。
「魔法…とかいうものか?」
菊は、熱でぼんやりしながらも、その単語を思い出していた。
アルテンとの旅路で、覚えた言葉だった。
捧櫛の神殿にたどりついた時、イデアメリトスの話になったのだ。
「歌っていればよかったのだ。皆、ただ、歌って暮らせば…」
トーの声には、悔いる感情が染み渡っている。
魔法など、使わなければ──菊には、そう聞こえた。
よく分からないが、魔法はトーにとって危険なものなのだろう。
歌は問題ない、ということか。
「トー…やはり、トーは宗教家になれるな。歌だけで十分に、だ」
暖かさと熱で、うつらうつらしながら、菊は笑っていた。
彼の後悔など、正直どうでもいい。
トーの血族が何をしようが、それは彼らが自分で選んだ結果だ。
そんなものまで、トーが背負う必要などなかった。
それより。
この歌でも、菊にとっては十分魔法に思えた。
魔法は、イデアメリトスだけしか使えないと、一般の人々は信じている。
それ以外の者がちょっとでも使えば、簡単に奇跡の人の出来上がりではないか。
「おかしなことを言うな…お前は」
トーは、困った笑顔を浮かべている。
そんな顔を瞳に残して、菊は目を閉じた。
後は。
この、どこに出しても恥ずかしくない人見知りを、どうにかしなければ。
菊は、そのままぐっすりと眠ってしまった。
朝まで。