アリスズ

 朝だ。

 時々トーが歌ってくれたのか、菊はまったく寒い思いもせずにぐっすり眠ることが出来た。

 おかげで、熱もさっぱり引いている。

 今日は、問題なく旅が続けられそうだ。

 だが──朝なのだ。

「今日は…明るい内に行かないか?」

 旅路で手に入れた獣の肉で、トーは器用に干し肉を作った。

 その肉を、朝食代わりにかじりながら、菊はこの白い獅子に語りかける。

「………」

 彼は、しばらく黙り込んだ。

「私を…さらし者にする気か?」

 これまでの菊の発言を集めて、トーはそんな結論を出したようだ。

「あっはっは、さらし者か。そうだな、私はトーをさらしたいぞ」

 王という形以外でも、世界を獲ることは出来る。

 空が、太陽だけのものではないように。

「自分の価値と、自分の使い道を、自分で知ってほしいな…価値の方は、特に、ね」

 ひととおり笑い終えた後、菊は微妙な表情をしたままのトーにそう願うのだ。

 だが。

 価値というものは、自分だけでは知ることが出来ない。

 人の目で見られて初めて、客観的に理解できるものなのだ。

 だからこそ、彼は人目に晒されなければならないと菊は思うのである。

 トーは、黙っている。

 何か考えてはいるのだろうが、迷っているようには見えないところが、彼らしい。

「昨日、私のために歌ってくれたように、他人のために歌うことも、あってもいいんじゃないか?」

 鳴かぬなら。

 鳴かせてみたいのだ。

 この、ホトトギスを。

「問題が…起こるぞ」

 トーは、苦しそうな瞳になった。

 菊は、笑った。

「起こっていいじゃないか」
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