アリスズ
☆
リサーの叔父の屋敷まで、スレイは同行した。
顔を見せるというほどでなくとも、存在だけは明らかにしておかせると、ロジューには言われていたのだ。
「あらあらお帰り。長い仕事だったね」
女中頭のネラッサンダンは、景子の顔を見るや嬉しげに笑った。
「はい、いま帰りました」
ぺこりと頭を下げていると、ネラの視線は既にスレイに向けられていた。
フードをかぶったままなので、気味が悪く思われているのかもしれない。
「あ、あの…イデアメリトスの妹君のご紹介で…その」
教えられた通りの言葉で、景子があうあうと不慣れな言葉を紡ごうとしたら。
先に、ネラがにんまりと笑った。
「ああ、そうかいそうかい…すごい御方に紹介してもらったんだね。よかったねえ。30過ぎてるって聞いて心配してたんだよ」
あはははは。
あっという間に理解され、笑いながら景子の腕をばんばんと叩く。
「あ、じゃあ、どこかに引っ越しするのかい?」
はっと気付いた顔で、そう問いかけられた。
「い、いえ…彼はイデアメリトスの妹君のところで働いているので、このまま隣領に帰ります。私は、もうしばらくこちらのお世話になります」
嘘をつくのって、すごくドキドキするものだ。
「そうかいそうかい。お勤めがあるんじゃしょうがないね」
この場合のドキドキを、ネラは違う意味だと理解してくれたようで。
胸が痛いなあ。
景子は、あうあうと心の中で唸った。
「では…行くぞ」
小さく、スレイが声をかけるのに、景子はこくこくと頷いた。
護衛ありがとうございました、と言おうとした口に、ストップをかけると、他の言葉が見つけられなかったのだ。
自分の夫役の相手に、ありがとうございましたもないのだから。
去っていくスレイを、ネラと見送っていると。
「あんた…多分、子供を授かってるよ。そんな顔をしてる…大事にしないとね」
ネラが、にっこりしながら物凄いことを言い当ててきた。
景子の心臓は、どきっと飛び跳ねる。
さすがは、経験者。
魔法なんかなくても、彼女は簡単にそれを言い当ててしまった。
リサーの叔父の屋敷まで、スレイは同行した。
顔を見せるというほどでなくとも、存在だけは明らかにしておかせると、ロジューには言われていたのだ。
「あらあらお帰り。長い仕事だったね」
女中頭のネラッサンダンは、景子の顔を見るや嬉しげに笑った。
「はい、いま帰りました」
ぺこりと頭を下げていると、ネラの視線は既にスレイに向けられていた。
フードをかぶったままなので、気味が悪く思われているのかもしれない。
「あ、あの…イデアメリトスの妹君のご紹介で…その」
教えられた通りの言葉で、景子があうあうと不慣れな言葉を紡ごうとしたら。
先に、ネラがにんまりと笑った。
「ああ、そうかいそうかい…すごい御方に紹介してもらったんだね。よかったねえ。30過ぎてるって聞いて心配してたんだよ」
あはははは。
あっという間に理解され、笑いながら景子の腕をばんばんと叩く。
「あ、じゃあ、どこかに引っ越しするのかい?」
はっと気付いた顔で、そう問いかけられた。
「い、いえ…彼はイデアメリトスの妹君のところで働いているので、このまま隣領に帰ります。私は、もうしばらくこちらのお世話になります」
嘘をつくのって、すごくドキドキするものだ。
「そうかいそうかい。お勤めがあるんじゃしょうがないね」
この場合のドキドキを、ネラは違う意味だと理解してくれたようで。
胸が痛いなあ。
景子は、あうあうと心の中で唸った。
「では…行くぞ」
小さく、スレイが声をかけるのに、景子はこくこくと頷いた。
護衛ありがとうございました、と言おうとした口に、ストップをかけると、他の言葉が見つけられなかったのだ。
自分の夫役の相手に、ありがとうございましたもないのだから。
去っていくスレイを、ネラと見送っていると。
「あんた…多分、子供を授かってるよ。そんな顔をしてる…大事にしないとね」
ネラが、にっこりしながら物凄いことを言い当ててきた。
景子の心臓は、どきっと飛び跳ねる。
さすがは、経験者。
魔法なんかなくても、彼女は簡単にそれを言い当ててしまった。