アリスズ

「叔母上様!」

 アディマは、ロジューの部屋を訪れた。

「なんだ、騒々しい」

 彼女は、一人だった。

 どこかにケイコがいるかと、アディマは一瞬顎を巡らせる。

「どういうことですか、叔母上様。ケイコを同行させるつもりとは」

 父から、例の歌う者の討伐に、ロジューを向かわせることは聞いた。

 だが、それには追加があって。

 ケイコも連れて行くと聞いた時には、彼の心臓はつぶれそうなほど痛んだのである。

 その足で、アディマは叔母の部屋へ直行したのだ。

「行きたいと言ったのは、あの者だぞ。大した熱意だったから、連れて行くことにしただけだ」

 フン、と。

 ロジューは、鼻を鳴らす。

 また、アディマの過保護が出たかとでも思っているのだろうか。

「そんな気楽に、受けるべきことではないでしょう。彼女は…」

「うるさい」

 続けようとした言葉を、叔母は一言踏みつぶす。

「いいか? イデアメリトスの選択は、私の魔法で国の不安材料を取り除くということだ」

 バンと、その手がテーブルに叩きつけられる。

「私は、最大限の努力をする。ケーコは、相手の片割れを知っているかもしれないと言った。そして、自分が役に立つと私に売り込んだのだ。勘違いするな…まだケーコは、イデアメリトスにとって何の意味もない女だ」

 厳しい言葉で、ロジューは甥を打ちのめした。

 ケイコのことを、イデアメリトスには何の意味もないとまで言い放ったのだ。

 叔母が、彼女を蔑んで言っているわけではない。

 国にとって、ということだ。

「では、僕が行きましょう!」

 アディマは、身を乗り出した。

 たまたま叔母がいたから、彼女に白羽の矢が立っただけだ。

 本来ならば、アディマが行かなければならないことである。

 ここで、自分が行っても──いや、行くべきなのだ。

 叔母の唇が、「ほぉ」と小さい音を洩らす。

「その剣幕を、もう一度兄者にぶつけてきたらどうだ?」

 だが、その後に出てきたのは、痛烈な厭味だった。

「言われなくても、そうします」

 アディマは、その厭味をツラの皮で弾き返しながら、身を翻したのだった。
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