アリスズ

 なんで。

 景子は、ガタゴト荷馬車に揺られながら、後方の景色を見た。

 なんで、こうなってるんだろう。

 その景色の中では、馬が3騎、荷馬車の後からついてきている。

 先頭が、アディマ。

 後方には、ダイともう一人の兵士が。

「気にするな、単なるオマケだ」

 荷馬車の中で、ロジューは大量のクッションにうずもれていた。

 時々、無性に眠くなるという。

 どんな荷物よりも、彼女は寝心地を確保したいようだ。

「オマケって…」

 イデアメリトスの世継ぎを捕まえて、付属品扱いもないだろうに。

 大体。

 魔法を使える血族の中で、一番低い地位だからロジューが選ばれたのではないだろうか。

「愚甥が、兄者に直談判にいったとかでな…経験を積ませるために、行かせようという話になったようだな」

 彼女は、言う。

 もし、ロジューがこの髪の長さを持っていなかったとするならば、白羽の矢が立ったのはアディマだと。

 直談判かぁ。

 馬上のアディマを見ると、目が合った。

 どういう顔をしたらいいか、よく分からない。

 彼を憂鬱にさせる魔法の歌人に、イデアメリトスが二人向かうのだ。

 とっさの時に、自分は二人を止められるだろうか。

 景子が望んでいるのは、抹殺ではなく話し合いなのだから。

「だが、兄者もワルだからな…愚甥に許可は出したが、私への命令は撤回なしだ」

 今度は、自分の兄を捕まえて悪者扱いを始める。

「あの愚甥一人では、手加減するかもしれんからな…」

 くくく、とロジューは笑った。

 あー…。

 景子は、遠い目をしたくなった。

 おそらく、スレイもついてきているだろう。

 アディマ、ロジュー、ダイ、スレイ。

 この四人に囲まれたまま、どれほど穏便に事が運べるか。

 が、が、がんばる。

 細腕で、ぎゅっと拳を作りながら、景子は自分の決意は曲げなかった。
< 331 / 511 >

この作品をシェア

pagetop