アリスズ

 よし。

 景子は、考えた。

 目的地に到着するまで、おそらく結構な日数がかかるだろう。

 それならば、と。

 彼女は、日本人だ。

 この世界に、根を下ろすと決めはしたものの、その根元は変わらないわけで。

 日本人ならば、日本人らしく根回しをしよう!

 いきなり、景子がやろうと思っていることを行動したところで、うまくいくはずがない。

 ロジューとアディマ、ダイとは話をすることは可能なこの環境で、一人でも味方が増えればいいではないか。

 ということで、景子は常に一緒にいるロジューを、最初のターゲットにしたのだ。

「出会っていきなり…魔法ぶっ放したりは…しないですよ、ね?」

 クッションに身を預けているロジューは、彼女の言葉にけだるげに寝返りを打つ。

「あぁ? そんなもの気分だ…」

 だるい声が、それこそ気分で返事をしている。

「気分って」

 景子の知り合いが、一緒にいるかもしれないことは、既に知っているにも関わらず、そんなことはお構いなしのようだ。

「別の言い方をすれば、カンだ…相手がヤバイ奴だったら、躊躇などしない」

 旅を多くしている彼女が、いまも生きているということは、それだけ強かったということだ。

 その強さの中に、カンも含まれるのだろう。

 景子は、ちょっと嫌な予感がした。

 歌を歌う人、ではなく──菊だ。

 ロジューのカンが、菊を見てどう働くか。

 菊は、基本穏やかで明るいが、戦いとなるとまったく躊躇がない。

 命のやりとりに、本当に躊躇しないのだ。

 考えすぎかもしれないが、ロジューと菊を会わせることに、不安が頭をもたげてきた。

「あのぉ…変な剣を持ってる人は、私が絶対止めますから…いきなり魔法は…」

 不安を隠せないまま、もうひとおし。

「なら、私に出会う前に見つけて止めるんだな…私は知らん」

 ロジューは、まったくもっていつも通りだった。

 あう。

 景子は、がくっと肩を落とす。

 根回しは──完全な失敗だった。
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