アリスズ
☆
景子は、考えたのだ。
彼らが向かう先にいるのが、菊だと仮定して。
彼女が、何故その魔法の歌を歌う人と一緒にいるのか。
おそらく、気に入ったから。
何か、菊の心を動かすものを持っていたからだろう。
魔法の歌の話は、少しだけロジューから聞いた。
月の者ではないか。
そう言われたために、景子の頭の中からアルテンは消えたのだ。
彼は、領主の息子なのだから。
見知らぬ男が、もし危険になった時──菊は、彼を見捨てるだろうか。
無理だ。
袖すり合うも他生の縁。
相手が誰だろうと、絶対にいま横にいる相手を守るだろう。
そこが、菊の菊たるゆえん。
「ダイさん…」
昼食休憩時。
荷馬車から降りた景子は、さりげなく彼の近くに行った。
視線が動いて、ダイは景子を認識する。
「もしかしたら、菊さんがいるかもしれません」
その視線が、わずかに下に向く。
「聞いている…」
「あの…私…菊さんを説得したいと思ってます」
景子が、自分の思いを口にした時、一瞬ダイの動きが止まった。
そして。
ふっと笑ったのだ。
苦笑気味に。
あぁ。
心を読まれた気がした。
あの菊が、説得ごときで折れるかどうか。
ダイの方が、よほど彼女のことを分かっているように笑ったのだ。
もう既に。
彼は、最悪の場合、菊と剣を交えることまで想定しているかのようだった。
しょぼん。
根回し作戦──またも失敗。
景子は、考えたのだ。
彼らが向かう先にいるのが、菊だと仮定して。
彼女が、何故その魔法の歌を歌う人と一緒にいるのか。
おそらく、気に入ったから。
何か、菊の心を動かすものを持っていたからだろう。
魔法の歌の話は、少しだけロジューから聞いた。
月の者ではないか。
そう言われたために、景子の頭の中からアルテンは消えたのだ。
彼は、領主の息子なのだから。
見知らぬ男が、もし危険になった時──菊は、彼を見捨てるだろうか。
無理だ。
袖すり合うも他生の縁。
相手が誰だろうと、絶対にいま横にいる相手を守るだろう。
そこが、菊の菊たるゆえん。
「ダイさん…」
昼食休憩時。
荷馬車から降りた景子は、さりげなく彼の近くに行った。
視線が動いて、ダイは景子を認識する。
「もしかしたら、菊さんがいるかもしれません」
その視線が、わずかに下に向く。
「聞いている…」
「あの…私…菊さんを説得したいと思ってます」
景子が、自分の思いを口にした時、一瞬ダイの動きが止まった。
そして。
ふっと笑ったのだ。
苦笑気味に。
あぁ。
心を読まれた気がした。
あの菊が、説得ごときで折れるかどうか。
ダイの方が、よほど彼女のことを分かっているように笑ったのだ。
もう既に。
彼は、最悪の場合、菊と剣を交えることまで想定しているかのようだった。
しょぼん。
根回し作戦──またも失敗。