アリスズ
×
人々が、立ち去ってゆく。
「おやすみなさい、良い明日を」
多くの人々が、男に声をかけ、指先を触れあわせ──目に涙さえ浮かべる者もいる。
うちに泊っていってくれと、懇願する者が数名残る頃。
ダイは目を閉じて、己の酔いをさまそうとしていた。
もっと、暴力的な魔法というものを想像していたのだ。
彼は、その身に魔法を受けたことがある。
祭りの時、ケイコの部屋のドアの番をしていた時のことだ。
本当に、不思議に思うことも、あらがうことも出来ずに、彼は眠らされた。
イデアメリトスの魔法の前では、ダイなどただのデクなのだ。
それほど、暴力的なものだった。
しかし、この歌は違う。
聞かないという選択肢も、歌にあらがうことも本当は出来る。
だが、聞きたいと思わされるのだ。
類まれな歌い人と言ってしまえば、それで終わりかもしれない。
少なくとも。
彼が、この仕事をしていなければ、魔法の力を含んでいるなんて考えもしなかっただろう。
「ダイ…彼は、トーだ」
そして──ついに、男と引きあわされた。
ダイは、ゆっくりと目を開けて、白髪の男を見る。
精悍ではあったが、攻撃的ではない。
穏やかではあったが、中心に鋼よりも固い何かがある。
彼は、キクに似ている気がした。
二人とも、何かを求めているわけではないのだ。
自分が、自分らしくあろうとしているだけ。
だが。
ダイは、斬れと命じられれば、斬らなければならない。
この二人を。
すぅっと、息を吸った。
「領主の屋敷に、彼女がいる。彼女は、お前を心配している…」
彼は、紹介された男から、キクへと視線を移した。
へぇ、と彼女は目を細める。
「トー…領主の屋敷に行こう。きっとそこには、いい事と悪い事が待っている」
彼女は、楽しげだ。
悪いことも、キクにとって障害ではないのだろう。
「そうか…分かった」
男は、無条件にキクを信頼しているようだった。
ダイは、苦笑した。
これではまるで、自分たちが悪者のようだ、と。
人々が、立ち去ってゆく。
「おやすみなさい、良い明日を」
多くの人々が、男に声をかけ、指先を触れあわせ──目に涙さえ浮かべる者もいる。
うちに泊っていってくれと、懇願する者が数名残る頃。
ダイは目を閉じて、己の酔いをさまそうとしていた。
もっと、暴力的な魔法というものを想像していたのだ。
彼は、その身に魔法を受けたことがある。
祭りの時、ケイコの部屋のドアの番をしていた時のことだ。
本当に、不思議に思うことも、あらがうことも出来ずに、彼は眠らされた。
イデアメリトスの魔法の前では、ダイなどただのデクなのだ。
それほど、暴力的なものだった。
しかし、この歌は違う。
聞かないという選択肢も、歌にあらがうことも本当は出来る。
だが、聞きたいと思わされるのだ。
類まれな歌い人と言ってしまえば、それで終わりかもしれない。
少なくとも。
彼が、この仕事をしていなければ、魔法の力を含んでいるなんて考えもしなかっただろう。
「ダイ…彼は、トーだ」
そして──ついに、男と引きあわされた。
ダイは、ゆっくりと目を開けて、白髪の男を見る。
精悍ではあったが、攻撃的ではない。
穏やかではあったが、中心に鋼よりも固い何かがある。
彼は、キクに似ている気がした。
二人とも、何かを求めているわけではないのだ。
自分が、自分らしくあろうとしているだけ。
だが。
ダイは、斬れと命じられれば、斬らなければならない。
この二人を。
すぅっと、息を吸った。
「領主の屋敷に、彼女がいる。彼女は、お前を心配している…」
彼は、紹介された男から、キクへと視線を移した。
へぇ、と彼女は目を細める。
「トー…領主の屋敷に行こう。きっとそこには、いい事と悪い事が待っている」
彼女は、楽しげだ。
悪いことも、キクにとって障害ではないのだろう。
「そうか…分かった」
男は、無条件にキクを信頼しているようだった。
ダイは、苦笑した。
これではまるで、自分たちが悪者のようだ、と。