アリスズ
☆
翌日。
ようやく梅が、普通どおりに動けるようになった。
身仕度を整えた彼女が、ふらりといなくなったのは気になったが、菊がまったく心配している様子はなかったので、景子もそうすることにしたのだ。
一時間ほどして帰ってきた梅は――着物姿ではなくて。
「梅さん!」
襟元に綺麗な刺繍のほどこされた、上品なロングワンピースのような姿。
女主人の、重ね着した重そうな衣装と違って、若々しく動きやすそうに見える。
「き、着物はどうしたんですかっ!」
慌てふためく景子を前に、彼女はにこりと微笑んだ。
「イエンタラスー夫人に差し上げました」
そして、事もなげに言い放つ。
イエンタラスー夫人なんて呼ぶ相手は、あの女主人に違いない。
着物に、ずいぶん執心していたようだったのだから。
「だって…着物……」
ワンピースも、よい仕立てのようだが、着物と秤にかけるには意味合いがかなり違う気がする。
その気持ちを、景子はうまく伝えきれずにいた。
「ここに置いてもらえることになったので、お礼ですよ。大丈夫です…着物が欲しくなったら、また作りますから」
しかし、梅はまったく気にしている素振りはない。
その上。
つ、く、る?
景子には、想像さえ難しい発言が出たのである。
「梅の普段着は、大体自作だからね」
菊のさらっとしたフォローに、景子は軽いめまいがした。
そっか、和裁…和裁があるんだ。
短大には服飾科もあり、そこでは和裁なる科目もあったことを思い出す。
だが、高校生くらいの子に、負けた気が否めない景子だった。
「そして、これがあなた方の旅の服です」
手に抱えていた布を、梅は差し出す。
「手回しのいいことで」
菊は、微妙な表情で布をつまみ上げた。
上下セパレーツの服だ。
スカート型とズボン型がある。
菊は――無言でズボン型を取った。
あっ。
景子が負けた、と言う意味だった。
翌日。
ようやく梅が、普通どおりに動けるようになった。
身仕度を整えた彼女が、ふらりといなくなったのは気になったが、菊がまったく心配している様子はなかったので、景子もそうすることにしたのだ。
一時間ほどして帰ってきた梅は――着物姿ではなくて。
「梅さん!」
襟元に綺麗な刺繍のほどこされた、上品なロングワンピースのような姿。
女主人の、重ね着した重そうな衣装と違って、若々しく動きやすそうに見える。
「き、着物はどうしたんですかっ!」
慌てふためく景子を前に、彼女はにこりと微笑んだ。
「イエンタラスー夫人に差し上げました」
そして、事もなげに言い放つ。
イエンタラスー夫人なんて呼ぶ相手は、あの女主人に違いない。
着物に、ずいぶん執心していたようだったのだから。
「だって…着物……」
ワンピースも、よい仕立てのようだが、着物と秤にかけるには意味合いがかなり違う気がする。
その気持ちを、景子はうまく伝えきれずにいた。
「ここに置いてもらえることになったので、お礼ですよ。大丈夫です…着物が欲しくなったら、また作りますから」
しかし、梅はまったく気にしている素振りはない。
その上。
つ、く、る?
景子には、想像さえ難しい発言が出たのである。
「梅の普段着は、大体自作だからね」
菊のさらっとしたフォローに、景子は軽いめまいがした。
そっか、和裁…和裁があるんだ。
短大には服飾科もあり、そこでは和裁なる科目もあったことを思い出す。
だが、高校生くらいの子に、負けた気が否めない景子だった。
「そして、これがあなた方の旅の服です」
手に抱えていた布を、梅は差し出す。
「手回しのいいことで」
菊は、微妙な表情で布をつまみ上げた。
上下セパレーツの服だ。
スカート型とズボン型がある。
菊は――無言でズボン型を取った。
あっ。
景子が負けた、と言う意味だった。