アリスズ
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 そして。

 不思議な会見が、始まった。

 奥に、イデアメリトス二人。

 入って来たのは、キクと白髪の男──トー。

 入口に控えるのは、ダイ。

 いるのは、この五人だった。

 イデアメリトスの君は、ケイコをここに同席させなかった。

 それ以前に、知らせてもいないだろう。

 彼女にとって、残酷な結果になるかもしれない──おそらく、そう気遣った結果なのだ。

 ケイコは、とにかく平和に事を進めたがっていた。

 ある意味。

 彼女の希望は、叶えられた。

 こうして、彼らは刃を向けあうこともなく、顔を合わせたのだから。

 だが。

 ここから先の保障など、何もなかった。

 菊も剣を帯びているし、ダイもそうしている。

 ここで、何かが起きてもまったくおかしくない。

「元気そうで何よりです、『御曹司』」

 キクは、イデアメリトスの君を、名前で呼ぶことはない。

 おそらく、本能的に彼がどういう存在か理解していたのだろう。

 奇妙な呼び方は、変えないままだが。

「本当に女だったとはな…ケーコと、同じ国の人間とは思えない面構えだが、どっちが普通なのだ?」

 叔母君が、身を乗り出しながら、その金褐色の瞳を爛々と輝かせる。

 目だけでキクの喉笛に、噛みつかんとするかのように。

 彼女は、目を細めてその野生の瞳を見る。

「貴女も、御曹司と同じ血の人間とは思えない面構えですね…どっちが普通ですか?」

 女二人の視線の間で、火花が散った気がした。

 だが、その火花を笑い飛ばしたのは、叔母君だった。

「なるほど、やはりケーコと同じ国の人間だな。イデアメリトスにはこれっぽっちの興味もないか」

 野生の瞳をしまわないまま、叔母君は笑みを続ける。

 その瞳が、白髪のトーで止まる。

 トーが、さっきから叔母君の方を見ていたからだ。

「子供が苦しんでいる…」

 イデアメリトスを前にして、初めて彼が語った言葉が、それだった。
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