アリスズ
△
廊下の向こう。
ダイが歩いてくるのを、菊は確認していた。
その前に、小さな御曹司がいることも。
興味深げな、猫目石の目が双子を見る。
おそらく、服装のせいだろう。
梅と共に足を止め、軽く会釈をする。
菊にしてみれば、彼の食客になるようなものだ。
どこまで話が通じているかは、別として。
たとえ、景子だけ連れて行く気であったとしても、勝手にくっついて行けばいいだけのこと。
こっちが向こうの事情が分からないように、向こうもこっちの事情など分かりはしないのだから。
「───…」
何か語りかけられる。
梅は、それに軽く頷く。
何だかんだで、双子の相方は人とのコミュニケーションがうまい。
空気を読む能力と、人の心の機微に敏感なのだろう。
御曹司の視線が、ふっと周囲を泳いだ。
梅も、それに付き合った後、少し表情を曇らせた。
「景子さんなら、お部屋に残ってらっしゃいますよ」
ただの事実を伝えるには、少し抑えめの声。
言葉に、御曹司のまつげが反応したのを、菊はしっかりと見た。
それきり、彼らはただすれ違ったが。
菊は、ちらりと自分の相方を見た。
「何、考えてる?」
あれでは、まるで景子に心配事があるかのように伝わるではないか。
梅が、わざとやっているようにしか思えなかった。
「そうね…景子さんの今後のことかしら」
小さく笑う。
「景子さんが安全なところに落ち着くまで、菊も守って差し上げなさいよ…恩人なのだから」
「分かってるよ」
まったく、いろんな意味で恩人だよな。
迂闊な言葉が頭に浮かびそうになって、菊は自重した。
しかし、梅にその空気は伝わってしまったのか。
横目で、悪戯をした子供のような瞳を送ってくる。
「何だ…梅もこの世界が気に入ってたのか」
菊は──少し呆れて笑った。
廊下の向こう。
ダイが歩いてくるのを、菊は確認していた。
その前に、小さな御曹司がいることも。
興味深げな、猫目石の目が双子を見る。
おそらく、服装のせいだろう。
梅と共に足を止め、軽く会釈をする。
菊にしてみれば、彼の食客になるようなものだ。
どこまで話が通じているかは、別として。
たとえ、景子だけ連れて行く気であったとしても、勝手にくっついて行けばいいだけのこと。
こっちが向こうの事情が分からないように、向こうもこっちの事情など分かりはしないのだから。
「───…」
何か語りかけられる。
梅は、それに軽く頷く。
何だかんだで、双子の相方は人とのコミュニケーションがうまい。
空気を読む能力と、人の心の機微に敏感なのだろう。
御曹司の視線が、ふっと周囲を泳いだ。
梅も、それに付き合った後、少し表情を曇らせた。
「景子さんなら、お部屋に残ってらっしゃいますよ」
ただの事実を伝えるには、少し抑えめの声。
言葉に、御曹司のまつげが反応したのを、菊はしっかりと見た。
それきり、彼らはただすれ違ったが。
菊は、ちらりと自分の相方を見た。
「何、考えてる?」
あれでは、まるで景子に心配事があるかのように伝わるではないか。
梅が、わざとやっているようにしか思えなかった。
「そうね…景子さんの今後のことかしら」
小さく笑う。
「景子さんが安全なところに落ち着くまで、菊も守って差し上げなさいよ…恩人なのだから」
「分かってるよ」
まったく、いろんな意味で恩人だよな。
迂闊な言葉が頭に浮かびそうになって、菊は自重した。
しかし、梅にその空気は伝わってしまったのか。
横目で、悪戯をした子供のような瞳を送ってくる。
「何だ…梅もこの世界が気に入ってたのか」
菊は──少し呆れて笑った。