アリスズ

 アディマは、ほっとしたようだった。

 何を心配していたのかは知らないが、景子もその様子に安堵する。

 彼の後方に、ぬぅっとした影が現れる。

 ダイが、少しだけ扉の間から姿を見せていた。

 そこまで来て、景子は自分がこちらの服に着替えていたことを思い出す。

 うわあ。

 カァァっと、一気に耳まで熱くなった。

 こ、これはこっちでは恥ずかしくないんだ。おかしくないんだ。

 自分に言い聞かせても、照れはおさまらない。

 アディマが、そんな景子に不思議そうにした後──何かに気づいたように、彼女の姿を見る。

 何か。

 服装以外の、何物でもないではないか。

 ますます、恥ずかしさに拍車がかかる。

「ケーコ…───」

 アディマは。

 少し嬉しそうに目を細めた。

 似合っているというとか、似合っていないとかではなく、それを旅支度と認識したように思えた。

 景子も一緒に旅をするのだと、ようやく彼が理解したような。

 梅を置いていくことには、本当に心残りがある。

 菊も景子と同行すると言い出したので、本当に彼女は一人になってしまうではないか、と。

『大丈夫、次にあなた方が来る頃には、最高のもてなしが出来るようにしていますから』

 そして、梅は景子の手を取ったのだ。

『私たちは、日本人です。それを忘れなければ、どこででもまっすぐ生きてゆけます』

 ここにも、同じように太陽があるんですもの。

 景子は。

 窓の外を見た。

 明るい日差しが、窓ごしに入ってくる。

 この世界にも、ちゃんと太陽があるのだ。

 夜の月は、少し怖い色をしていたが、太陽の色も数も日本と変わらない。

 彼女のお天道様の目も、何も変わらない。

 少し照れのおさまった頬で、景子はアディマを向き直った。

「アディマ…足手まといかもしれないけど、これからよろしくね」

 ぺこりと頭を下げると、子供ならざる者はゆるやかに微笑んだ。

 懐の、深い深い笑みだった。
< 37 / 511 >

この作品をシェア

pagetop