アリスズ

 太陽親子が、並んでいる姿は壮観だった。

 御曹司は、悠然と微笑み、その隣に年齢と悪さを足した男がいるのだ。

 ダイを始め、皆が慌てて膝を折る中、菊はゆっくりと頭を垂れた。

「面白い剣の技を使うな。舞踏のようだ」

 菊は、その言葉には反応せず放置する。

 木剣の試合は、あくまでも武芸だ。

 芸という意味では、舞踏と思われても仕方がないだろう。

「どうだ、都で剣を教える気はないか?」

 菊の、糸を容易に踏む男だ。

 人の心を、どれほど弄んできたのだろう。

「私は、生来身分で人の扱いを変えられませんゆえ、不都合も多かろうと思われます…」

 弄ぶ言葉には、弄ぶ言葉で返す。

 のらりくらり。

 菊は、やんわりと申し出に足を乗せたのだ。

 蹴る気満々で。

「異国の者よ。太陽をまっすぐ見据えられるか?」

 そんな言葉になど、惑わされる男ではなかった。

 本質と言う糸の上で、禅問答している気分だ。

「我ら、日出ずる国より来ましたゆえ…」

 心の中で、翻る日の丸。

 生まれてこの方、太陽を常に近くに感じて生きてきたのだ。

「はっはっはっ。見事な肝よ。太陽は味方であると言うか。ならば、私も味方にならざるを得んな」

 パン、とひとつ手を打つ。

 菊の存在を、珍獣のように面白がっている。

「よかろう。貴殿を、うちの客将としと招こう。剣技を教える相手には、等しく接することを許そうではないか」

 ふうん。

 面白がって、更に面白い免状を出すではないか。

 ざわ、と。

 菊の肌があわ立つ。

 暑いはずなのに、だ。

「宮殿の外で、習いたい者が等しく習うことが出来る道場を作ることを許可いただけるなら、その免状…お受け致しましょう」

 菊は、一歩も引かないまま、自分の要求を突き出した。

 これは、彼女の価格の話なのだ。

「おまえは…」

 隣で膝をつくダイが、深い深いため息をついた。

「万事分かった。だが、我に良い買い物をしたと思わせろよ」

 ははははは。

 軽やかに笑いながら、太陽は建物へと消えて行ったのだった。
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