アリスズ
☆
「え、ええー!」
袴姿で、楽しげに景子の部屋にやってきたかと思うと、菊はとんでもない話を始めた。
アディマの父と、剣術道場を作る話を取りまとめたと言うのだ。
本人が、一人で宮殿に乗り込んで行った事実だけでも驚きだったが。
そこで、ダイと思う存分試合をしたとまで聞いたら、感心するしかなかった。
「どうせ、梅もそのうち来る…景子さんも、ここでの居候も窮屈だろう?」
そして。
なんとあっさりと。
菊は、梅も景子も道場で暮らす話をするのだ。
当たり前のように。
そう、当たり前の――家族のように。
ああ。
身体の中を血が流れているという、普遍の事実と同じほどの理由で、菊の中には愛が流れている。
剣で立てた身で、身内への愛を返すのだ。
そんな、骨太の愛を目にする日が来るとは、思ってもみなかった。
驚きと感動で、景子が動けずにいると。
「ただ…ダイをまた困らせたようだ…私と知り合ったのが運の尽きだな」
ふっと。
菊が思い出し笑いをした横顔は――とても美しかった。
いつもの美しさとは違う、微かな艶がそこにある気がしたのだ。
景子は。
どこからどう話をしていいか、分からなかった。
「ええと…とりあえず、しばらく都に滞在すると言うこと?」
混乱する言葉を、ひとつ掴みあげる。
「そう…不興を買うか、道場を任せられる者が出るまでは、ね」
皮肉を混ぜてはいるが、明快な返答。
「そこに、私も置いてくれるの?」
ワケあり身重の、農林府の下っぱを。
どこが長所か欠点か、自分でもよく分からない。
「そうしたら…みんなで景子さんの子供たちを育てられる」
夢のような。
まるで、夢のような物語が、そこにはあった。
「わ、わた、わたし…一生懸命稼いで来るから! すごい農業技術者になるから!」
そんな夢の中に、ただ浸かっているだけ、なんていう体たらくをしないためには。
景子は、景子の目標に向かわなければならない。
「期待しているよ」
菊は、彼女の言葉を、何一つ疑うことのない笑みで答えたのだった。
「え、ええー!」
袴姿で、楽しげに景子の部屋にやってきたかと思うと、菊はとんでもない話を始めた。
アディマの父と、剣術道場を作る話を取りまとめたと言うのだ。
本人が、一人で宮殿に乗り込んで行った事実だけでも驚きだったが。
そこで、ダイと思う存分試合をしたとまで聞いたら、感心するしかなかった。
「どうせ、梅もそのうち来る…景子さんも、ここでの居候も窮屈だろう?」
そして。
なんとあっさりと。
菊は、梅も景子も道場で暮らす話をするのだ。
当たり前のように。
そう、当たり前の――家族のように。
ああ。
身体の中を血が流れているという、普遍の事実と同じほどの理由で、菊の中には愛が流れている。
剣で立てた身で、身内への愛を返すのだ。
そんな、骨太の愛を目にする日が来るとは、思ってもみなかった。
驚きと感動で、景子が動けずにいると。
「ただ…ダイをまた困らせたようだ…私と知り合ったのが運の尽きだな」
ふっと。
菊が思い出し笑いをした横顔は――とても美しかった。
いつもの美しさとは違う、微かな艶がそこにある気がしたのだ。
景子は。
どこからどう話をしていいか、分からなかった。
「ええと…とりあえず、しばらく都に滞在すると言うこと?」
混乱する言葉を、ひとつ掴みあげる。
「そう…不興を買うか、道場を任せられる者が出るまでは、ね」
皮肉を混ぜてはいるが、明快な返答。
「そこに、私も置いてくれるの?」
ワケあり身重の、農林府の下っぱを。
どこが長所か欠点か、自分でもよく分からない。
「そうしたら…みんなで景子さんの子供たちを育てられる」
夢のような。
まるで、夢のような物語が、そこにはあった。
「わ、わた、わたし…一生懸命稼いで来るから! すごい農業技術者になるから!」
そんな夢の中に、ただ浸かっているだけ、なんていう体たらくをしないためには。
景子は、景子の目標に向かわなければならない。
「期待しているよ」
菊は、彼女の言葉を、何一つ疑うことのない笑みで答えたのだった。