アリスズ
☆
驚きは、続けてやってきた。
外畑で、相変わらず這いつくばっていた景子の傍に、人が立ったのだ。
自分に意識が向いているのに気づいて、はっと顔を上げる。
「行商人さんっ!」
見覚えのある顔に、景子は驚いた。
頭に布を巻き付けている彼は、とても特徴的な人で、見間違えようもなかったのだ。
「ケーコ?」
だが、不思議なことに、彼は彼女の名前を口にしたのだ。
名前を名乗ったことは、なかったはずなのに。
とりあえず、景子はこくこくと頷いた。
「ああ、あなたが、ケーコか…」
はぁと、肩の荷が降ろせたように、彼はため息をつく。
「ウメという女性から、伝言を預かっている」
そして。
北にいる、愛すべき女性の名を出すのだ。
「元気にしている…そう、伝えて欲しいと」
口にされた伝言は、他愛ないもの。
だが、他愛ないからこそ、景子を震わせた。
北で、自分を案じている人がいる。
彼女は、自分が元気かどうかを伝えたいわけではないのだ。
自分の元気を伝えることで、景子が元気にしているか、問題ないかを心配していることを伝えようとしていたのだ。
短いが、愛のこもった伝言だった。
それを、律儀に彼は伝えようと景子を探してくれたのだ。
梅の気持ちを、ちゃんと汲み取ってくれたのか、はたまた商売魂に満ちあふれているのか。
どちらにせよ、梅は彼を信頼したのだ。
「ハイ、元気です! 農林府で働いています! そのうち子供も産まれます!」
景子は、しゃきっと背筋を伸ばして、行商人に向かって宣言した。
ああ、違う。
これでは、母に自分の近況を伝える子供レベルではないか。
違うのだ。
梅に、本当に伝えたい言葉は。
「あの、あの、さっきのは無しで!」
大きな箱を背負ったまま、黙って立つ彼は、録音機ではない。
血の通う、そしてその足で長い距離を旅する、貴重な人なのだ。
「待ってます、と。都で待ってますと…そう伝えていただけますか?」
これが、いまの景子が彼女に送れる――精一杯の愛。
驚きは、続けてやってきた。
外畑で、相変わらず這いつくばっていた景子の傍に、人が立ったのだ。
自分に意識が向いているのに気づいて、はっと顔を上げる。
「行商人さんっ!」
見覚えのある顔に、景子は驚いた。
頭に布を巻き付けている彼は、とても特徴的な人で、見間違えようもなかったのだ。
「ケーコ?」
だが、不思議なことに、彼は彼女の名前を口にしたのだ。
名前を名乗ったことは、なかったはずなのに。
とりあえず、景子はこくこくと頷いた。
「ああ、あなたが、ケーコか…」
はぁと、肩の荷が降ろせたように、彼はため息をつく。
「ウメという女性から、伝言を預かっている」
そして。
北にいる、愛すべき女性の名を出すのだ。
「元気にしている…そう、伝えて欲しいと」
口にされた伝言は、他愛ないもの。
だが、他愛ないからこそ、景子を震わせた。
北で、自分を案じている人がいる。
彼女は、自分が元気かどうかを伝えたいわけではないのだ。
自分の元気を伝えることで、景子が元気にしているか、問題ないかを心配していることを伝えようとしていたのだ。
短いが、愛のこもった伝言だった。
それを、律儀に彼は伝えようと景子を探してくれたのだ。
梅の気持ちを、ちゃんと汲み取ってくれたのか、はたまた商売魂に満ちあふれているのか。
どちらにせよ、梅は彼を信頼したのだ。
「ハイ、元気です! 農林府で働いています! そのうち子供も産まれます!」
景子は、しゃきっと背筋を伸ばして、行商人に向かって宣言した。
ああ、違う。
これでは、母に自分の近況を伝える子供レベルではないか。
違うのだ。
梅に、本当に伝えたい言葉は。
「あの、あの、さっきのは無しで!」
大きな箱を背負ったまま、黙って立つ彼は、録音機ではない。
血の通う、そしてその足で長い距離を旅する、貴重な人なのだ。
「待ってます、と。都で待ってますと…そう伝えていただけますか?」
これが、いまの景子が彼女に送れる――精一杯の愛。