アリスズ
☆
リク。
行商人は、そう名乗った。
景子が、彼の名を聞いたのだ。
あれ?
これまで、この国の人が名乗る時、決して短い名前を言おうとはしなかった。
だが、彼は自ら短い名を名乗る。
その意図を汲み取る前に、ずいぶん前の記憶が呼び戻されていた。
「リク…パッシェルイル?」
名前だけ、聞いたことのあるその音。
それは、彼を驚かせたようだ。
「何故…俺の名を?」
怪訝な声に、景子は喜んだ。
そうか、彼がリクさんだったのか、と。
「捧櫛の神殿に行く時、妹さんの家にお世話になったんです!」
記憶の糸は、次から次へと旅路を引きずり出す。
小さい男の子の、お母さんだ。
ご縁から、景子が祝福を与えた子供だった。
「ああ…そうだったのか。俺の事は、良くは言ってはいなかっただろう」
バツの悪そうな声で、彼は天を仰いだ。
「心配してらっしゃいましたよ…」
答えつつ、何か引っ掛かって首を傾げる。
そういえば。
彼女は、兄は神にそむく姿をしていると言っていなかったか。
だが、一体どこを指しているか分からず、じっと見つめる。
そして。
ふと、彼のトレードマークである頭の布をみやった。
もしかして、と。
「もしかして…髪がありません?」
思えば、なんと不躾なことを聞いたのか。
だが、この時は本当についぽろっと言葉を出していたのだ。
リクは――苦い笑みになった。
「この頭では、どうにも商売がしづらくて…誤魔化している」
縛っている布が、取り払われる。
ぴっかぴかに太陽を反射する、そり上げられた頭。
な、なるほど。
この、髪をやたら大切にする国で、こんな頭をしていたら、神にそむいたと言われても仕方がないだろう。
けれど。
何故。
商売がしづらいと分かっていながら、彼は髪を捨てたのか。
「あなたたちは、三人とも好奇心で生きているな」
布を再び縛りつけながらも、彼の方こそ好奇心を秘めた声で景子を見るのだった。
リク。
行商人は、そう名乗った。
景子が、彼の名を聞いたのだ。
あれ?
これまで、この国の人が名乗る時、決して短い名前を言おうとはしなかった。
だが、彼は自ら短い名を名乗る。
その意図を汲み取る前に、ずいぶん前の記憶が呼び戻されていた。
「リク…パッシェルイル?」
名前だけ、聞いたことのあるその音。
それは、彼を驚かせたようだ。
「何故…俺の名を?」
怪訝な声に、景子は喜んだ。
そうか、彼がリクさんだったのか、と。
「捧櫛の神殿に行く時、妹さんの家にお世話になったんです!」
記憶の糸は、次から次へと旅路を引きずり出す。
小さい男の子の、お母さんだ。
ご縁から、景子が祝福を与えた子供だった。
「ああ…そうだったのか。俺の事は、良くは言ってはいなかっただろう」
バツの悪そうな声で、彼は天を仰いだ。
「心配してらっしゃいましたよ…」
答えつつ、何か引っ掛かって首を傾げる。
そういえば。
彼女は、兄は神にそむく姿をしていると言っていなかったか。
だが、一体どこを指しているか分からず、じっと見つめる。
そして。
ふと、彼のトレードマークである頭の布をみやった。
もしかして、と。
「もしかして…髪がありません?」
思えば、なんと不躾なことを聞いたのか。
だが、この時は本当についぽろっと言葉を出していたのだ。
リクは――苦い笑みになった。
「この頭では、どうにも商売がしづらくて…誤魔化している」
縛っている布が、取り払われる。
ぴっかぴかに太陽を反射する、そり上げられた頭。
な、なるほど。
この、髪をやたら大切にする国で、こんな頭をしていたら、神にそむいたと言われても仕方がないだろう。
けれど。
何故。
商売がしづらいと分かっていながら、彼は髪を捨てたのか。
「あなたたちは、三人とも好奇心で生きているな」
布を再び縛りつけながらも、彼の方こそ好奇心を秘めた声で景子を見るのだった。